oeksound “bloom”

oeksound “bloom” : they say “adaptive tone shaper”

改めて、oeksoundの新作bloomです(「改めて」が気になる方はこちらの連続ツイートポストを。本記事の内容とおおむね一緒です)。
ぱっと見はマルチコンプですが、実態はダイナミックEQとマッチEQとマルチコンプ(+マルチエクスパンダー)を合体させ、amountのワンノブで絶妙にそれらの効果のバランスを変えながら、入力信号のバランスを整えるものといえそう。
oeksoundは、adaptive tone shaperとカテゴライズしています。

マニュアルも拝見しましたが、コンセプトについてそこまで深く触れられていません。
製品ページ最下部の「so… what is it exactly?」(要は何なの?)に「ダイナミックEQやマルチコンプみたいに使ってもいいんじゃね?」的な記述が見えるのと、「音の温もりやヌケ感を考えるにあたってハーモニック(倍音)部分に注目していたらこういう仕組みになった」と述べているのは、本製品の役割を把握する一つの鍵だと思います。

「漠然と調整する」必要性

製品解説で見られる「いいバランス」の根拠は(厳密ではないが)等ラウドネス曲線に置かれており、これを再現した周波数分布のモデルを目掛けてマルチコンピング(「squash」)が行われます。聴覚が敏感な帯域とそうでない帯域とでコンプレッションのかかり方が異なり、それによって耳に心地よく聞こえるものに仕上がる――大雑把にいえばそういうもののよう。
多くのパラメータはdB等の単位を持たず、%とも少し違う係数として機能します。
右上に見えるフェーダーにしても、本製品では周波数の値を見せながらも「tone band」と呼んでおり、なるべく抽象的なまま、かつ連動性については伏せたまま処理を行おうという意志を強く感じます。「あくまでも目安と考えて操作してくれ」とマニュアル内でも念を押されています。

※上記動画には英語のCCが用意されているので、動画の設定画面から日本語への翻訳に切り替えることをお勧めします。

製品説明における「文脈」とは、sonible製品のようにlearningに基づく自動設定…ではなく、adaptiveに動作することを意味すると思われます。
最近よく見かけるadaptiveとは周波数応答への適応的(動的)調整で、これに似たdynamicは振幅(音量)への動的制御を指します。一概には言い切れませんが、そういう傾向があるとのこと。

前の記事バージョンで誤解を与える表現があったのでカットしました。
右下のアナライザー的な部分は、その水平線を飛び出す部分は本製品でブーストされた成分で、引っ込んだ部分はカットされた成分を指すみたいです。
この常時ヌルヌル動いてる感じを「adaptiveな動作」ととらえるとよさそう。

動画コメント欄では、イントロ価格もなく、優待価格もないことに不満しきり。
自分も確かに「高っ!」と思ったけど、本製品と引き換えに複数のプラグインが不要になることを考えると妥当な気もします。

明かされてないとこが気にはなるけど

sootheやspiffもそうでしたが、音響の問題を概念(または理論)として抽象化し、パラメータでコントロール可能にする手法が実にうまい。

つまりソフトの意図をユーザーが読み取れるかが「ユーザーがそれを便利に使うか」を左右します。
にも関わらず、このインターフェースから意図を読み取るのは相当厳しいと思っていて、マルチコンプでいいじゃんの結論に至る人が多いんじゃないかと。自分も半ばその感覚です。


等ラウドネス曲線が「いいバランス」に直結するかというと、そこには論理の飛躍があると思うのですが、良心的に解釈すれば、その飛躍部分にこそbloomの役割があるのでしょう。
この飛躍部分が明かされていない以上、楽器単体、ボーカル、ミックスバス、マスター、あるいは曲調やジャンル、テンポとあらゆるケースで効果を検証して役割を理解していくしかありません。

少し似た部類のソフトを上げると、案外WavesfactoryのEqualizerに近いか。

等ラウドネス曲線的な周波数分布に興味がなくて、ドンシャリ万歳、腰高万歳な人であれば、わざわざbloomを導入する必要もなく、好みの周波数分布のリファレンス楽曲を用意してマッチEQに放り込めばいいと思います。もしくはiZotopeのmusic rebalanceを使うのもアリだと思いますし。

余談

思えば草創期のマッチEQは、あまりに愚直にレファレンスを真似ようとし過ぎていました。その後徐々に動作がマイルドになりつつ機能の不足を補いつつbloomに行き着いた、そんな印象です。

最近のミーティングで(ワンノブ型の影響とも限らないのだろうけど)複合的な操作で抽象的な問題を解決するソフトの出現に伴って、売る側や紹介する側はそうした既存の分類に属さないイノベーティブなソフトの取り扱いが難しくなってきたねえ…なんて雑談をしました。

ちなみにこの、等ラウドネス曲線を目掛けてEQ調整できると面白いかなあってのは、実は何年も前にこの日記で書いたことがあるのでして。
別に名案とも思ってなかったから消したのだけど、今「ほれ見ろ」とも思わないもんですね(感情が衰えたともいう)。単に、あの発想が意外と的外れでもなかったのかもなとしか感じてない。

Following their announcement at NAMM in January, Oeksound has released Bloom - an adaptive tone shaper plugin. We have the details...

余談2

ちなみにoeksoundの名前の由来、読み方について海外でも少し話題になってますが、設立者、Olli Erik Keskinenの頭文字を取っただけだと思います。ミドルネーム部分はLinkedinでのみ確認できます(Olli Keskinenでググって出てくるフィンランド語版Wikipediaの記事は、同名の別人)。

なのでアルファベット読みの「オーイーケー」か、bloomの動画の0:22で自社名として発音している「オエク」が妥当でしょう。
とはいってもNAMMショーでインタビュアーが発音するような「オーク」も相手に通じてはいます。