12/1に更新すると思ってたSpireですが、海外記事を誤読していて更新日が実は不明でした。
と、その隙に Tone2 Icarus が1.5にアップデート。
Spireの1.3アップデートで機能がついにSerumを追い越したと書いたのに、IcarusはIcarusでまた絶妙なラインを攻めてSpireをパスしていったもんです…。
両者の攻めるラインがばっくり割れましたんで、キャラかぶりはほぼ無くなり、今後は用途に合わせて使い分けることになりそう。
虚空を見つめていたIcarusって子はもういません。翼も溶けません。それなりの目的地ができた様子。
まあ、言い過ぎですけどね。ひとまず僕にとっては有り難い方向に進歩してきてる感があります。
スタックを送り込むFM合成が新鮮
今回の新機能で加わった、オシレーター間のFM合成。
「FMならオシレーター同士の合成はレゾンデートル(存在意義)やん」。
ごもっともなんですが、オシレーターに”和音発音”とか”ステレオ発音”とか”フランジャー”とか”WavetableのIndexのクロスフェード度合い”とかが付随機能としてやたらたくさんぶら下がってるじゃないですか。あれが削がれることなく、かかったままFMのモジュレーターとしてぶっ込めてしまう。なんと。
和音で鳴っている音をまるっとモジュレーター信号として使ってしまうってのは、理屈上あり得なくもないし強引でもない話だけど、実用性と負荷に心配があってあまりやらない。でも、やっちゃった…。
IcarusにせよElectra2にせよTone2製品は、愚直にオシレーターの発音を重ねるのでなく、発音を重ねたときに起こるウネリをアルゴリズムとして持っているんでしょうか。
その結果、他のソフトシンセみたいにユニゾン重ねて猛烈に重くなるなんてことが起きにくいのでは、と憶測します。
先日、久々にアンビエントトラックを作ろうと思ってThornをユニゾン発音にしてスーパーロングリバーブをかけたら好きな感じの音になったのだけど、さしもの現iMacでも同期落ちしまくりでぬか喜びに終わってしまいました。
それでも力ずくでトラックダウンはしたのだけど…。
質感
肝心の質感はというと、元のWavetableに何を選んだかにもよりますが、他のソフトシンセよりずいぶん厚みや複雑さ、それでいて軽さの感じられる音になりました。
ソフトシンセってより、かつてあのとき存在し得なかったむしろPCMシンセの上位互換という響きです。デジタルアナログなのにね。
特に折り返しノイズっぽいのが無いのがよい。
ただし稀にAlchemyのように音域次第で突然特定の高域が出てくることがあって、それをどうにかしなきゃいけないのがしんどいかな。
ざくっと音を作ってみて思い起こさせられるのは90年代後半。
PCMシンセ登場したてのころのサウンドの劣化版というか廉価版音源が量産された時期で、音色のバリエーションは少しずつ増えていくのにどんどん品質が落ちていった記憶があります(当時の自分の懐事情の見地から)。
その後サンプリングCDが歓迎されてゆくようになったきっかけの一つですね。
そうしたLo-Fiな音源がもしハイフィデリティで構築されたならこんな音色になったんじゃないかなという、(あくまで個人的に)たらればのパラレルワールドを手繰り寄せた感じです。
ソフトのFMシンセの難しいとこは、発想としては豊かな倍音を生成する合成方法なのに実装上は処理負荷対策で倍音が乏しくなってしまっていること。
Tone2 Icarus 1.5においては再三書いたようにおそらく処理負荷を別の方式で軽減してると思われ、倍音がかなり豊かに鳴ります。
今どきのPopsやアニソン系のキラキラしたサウンドもわりあい簡単に出せそうですよ。
あとサウンドロゴにありがちなシンセ系の鍵盤打楽器音も簡単に出せそう。
ひとまずどんなサウンドになるのか試してみたものを載っけておきます。
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- 例1:OSC3をOSC1のFMソースとして使う。OSC3はFM Sineを用いる。ベロシティでOSC1のFMの強さをコントロール。
- 例2:さらにOSC1, 3ともにHyperStereo10を設定。さすがにFMがキツ過ぎたので弱めた。
- 例3:さらにFilterにフォルマントを設定して、ModulationWheelに連動させた。
- 例4:OSC3を和音で発音するようにして、OSC1にFMで送る。Filterは解除した。
上の例で鳴らしたシーケンスはそのままに、音色だけいじってサウンドロゴっぽい感じにしてみるとこんな感じ。
もともとがWavetableであることは今さら書く必要ないのだけど、出音にWavetableっぽさはほとんど感じられず、かといって減算系の響きでもPD系でもFMでもないリッチさがあります。
考えようによってはWavetableの醍醐味を失っているとも言えそうですが、今まで作りにくかった”Hi-Fiだけど平べったくないソフトシンセの音をレイヤーせずに作る”領域が新たに切り開かれた印象。
重ね重ね、これは処理負荷をおそらく他社と別の方針でどうにかした面が大きいのではないかと思われます。
他の合成、加工方式
FM以外に新たにAMの方式が加わったのはいいとして、過去記事でも触れている膨大な合成、加工方式が今どのくらいまで増えたのか。
当時とはメニューの表示方法が変わったのでPDFマニュアルからコピペしようと思ったら、昨年6月からマニュアルが更新されていませんね。
しょうがないので人力でリストアップするとこの通り。
Play Mode | Wave Shape | Morph Modes |
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Filter Type | Drive | FX |
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つまり、これら膨大な部品が掛け算の方式で処理されていきます。
指数的爆発にも驚きますが、加えて調律やWavetableを自作かつ細かく編集できるわけで、化け物的な機能を備えていると言えるでしょう。
それだけに自力でオリジナル音色を作っていくとなるととてつもない労力を強いられることになるので、有用な音色が提供されることに期待をかけます。
そんなわけで、僕としてもまだ真価を測りかねてるところがあるので、当面、色んな場面や用途で使っていってみようと思います。