Three-Body Tech “Cenozoix”

Three-Body Tech “Cenozoix”

Heavier7Strings以降、優れたイコライジングを行うKirchhoff EQを皮切りとして、既存のソフトウェア処理では不十分といえる問題の解決にもっぱら勤しむThree-Body Techから、これまた既存のソフトウェアコンプレッサーの問題を解決しようというCenozoixがリリースされました。
Cenozoixというのは新生代を意味するCenozoicからの命名と思われます。英語の発音だとシノゾイクスですが、日本語ではセノゾイックスと読むのがよさそうです。

ソフトウェアコンプに潜む課題と解決法の提案

Plugin Allianceでは手短に要点がまとめられていますが、ポイントは何点かあります。
1つ目はNative Instrumentsが発明したとされるADAA技術、つまりはオーバーサンプリングに依存せずにエイリアシングやデジタル歪みを回避する技術。コンプレッサーでなぜADAAを必要とするかはマニュアルにたぶん記されている…はず。下記は、かのJatin Chowdhury氏による解説。

Practical Considerations for Antiderivative Anti-Aliasing
In audio signal processing, it is often useful to use nonlinear functions for things like saturation, wavefolding, and more. While…

2つ目は、それでも取りこぼされるアタックステージ、リリースステージのエイリアシングを、局所的にオーバーサンプリングを用いて解決する技術。たしかに常時オーバーサンプリングを作動させておくよりも効率がよいと考えられます。

3つ目は、奇数次高調波のみ発生させがちな通常のコンプに対抗して、偶数時高調波を発生させることでチューブコンプのようなサウンドを生むオプションが搭載されています。ここは私、不勉強のためよくわかりません。

さらに4つ目は、アタックタイムやリリースタイムの設定により取りこぼされてしまうスパイクをルックアヘッドとは異なる手法で抑え込む機能。ここには遅いアタックタイム設定で取りこぼし得るアタックを再圧縮するクランプ機能と、速いアタックタイムでもなお取りこぼす可能性のあるスパイクを”超高速のコンプレッションによってオーバードライブのように潰す”デクリック機能があります。

あとPeak/RMSのバランシング、Feed-forwardとFeedbackのバランシング、面白いものとしてはコンプが効いた直後の沈み込むタイプのアルゴリズムに対して沈み込まないように調整したり、あるいはその逆の調整を行なったりと、実験/冒険的な機能も含めてさまざまな機能が盛り込まれており、確かにPlugin Allianceが好きそうな仕様だと感じました。

所感

機能が多いぶんインターフェースにコントロールがひしめいているため圧迫感を覚える部分もありますが、見慣れないラベルのついたコントロールは微調整要素と考え(競合製品ではこうした微調整要素を折り畳み画面下に隠すのを主流としますが)、豊富なプリセットをまずはチョイスしていくとよいかと思います。

とはいえ、ソフトウェアコンプレッサーが登場してだいぶ経ちますんで、ソフトウェアならではの歪みのあるコンプレッサーも(良くも悪くも)認知が進んでいると言えます。そうなると、特にソフトウェアコンプレッサーに慣れ親しんだ層にとっては、徹底的に実機動作に寄せたソフトウェアコンプレッサーの動作に違和感を覚えるってのもなくはない話。
早い話、専ら実機の挙動を知り尽くしていてソフトウェアシミュレーションに物足りなさを感じている方にとっての新しい手札となるでしょう、と。またソフトウェアシミュレーションには慣れているけれども、第六感的な部分で違和感を感じている人にとっても一縷の望みをかける価値のありそうなもの、と。
歪みや誤魔化しがなくなることでより良い音が得られるのは事実と考えられますが、どういった局面(サウンド)で絶大な効果が得られるのかがハッキリと示されれば、より多くの人が食いつくことになるんじゃないかなと思いました。