コンプ(Compressor)の話はあまり書かないのだけど、気になる例を幾つか聞いてしまったので。
※この話、またいずれ書きます。
順に、
- 一番上がボカロの歌声
- 2段目は生身の人間(比較的ダイナミクスの小さな曲)
- 3段目も生身の人間(かなりダイナミクスの大きな曲)
波形をズームインして表示してるのでクリップしてるわけではありません。
端的に言うと、3段目のようなボーカルトラックをエイッとがっつりコンプで叩いてるのは(聞いてすぐわかるんだけど)好ましくない。抑揚が無くなるからって論点で言う人も多いのだけど、ここで記したいのは、このままマキシマイザーに通したりすると歪む、もしくはボーカルばかり大きくなったりするってこと。
歪むようなマスタリングのやり方は下手である、その通り。
だから歪まないようにあの手この手でいわば”養生”をしなきゃいけないのだけど、そもそも、既にミックスされちゃってるものを力ずくでどうにかするってのは、結局何かが犠牲になるので好ましくない。
ミックスの段階だと(マキシマイザー通さないと思うので)過剰なコンプに気づきにくいわけです。
抑揚の大きな曲だけにこういうシンドいことが起きやすいかというと、そうでもなくて、
- 歌メロの音域が広すぎてあまり声量の出ない声域が登場する
- 突然「掛け声」が登場する(いちばん大きな声になる声域に歌い手が自分でタゲってしまうので必然的に極端に大きくなる)
- 曲中で声質を変えて歌う/喋る箇所がある
- ボーカリストがマイクとの距離や角度を一定に保てない
- 録音中に入力レベルを変えちゃってるもの(よほど環境が整っていて調整技術に慣れているのでないなら、いじらないほうがいい)
も似たような結果になります。
1〜3はその箇所だけトラックを分けるのが最善手。
4,5は少々厄介なパターン。
コンプの考え方としては音量を抑えたり持ち上げたりするもので間違いではないのだけど、特にボーカルにかけるコンプの場合は密度に対してかかると考えたほうがイメージしやすい。
スポンジのようにスカスカなものの体積を減らすと、スポンジ部分の密度が濃くなってスポンジの中を粒子が通りにくくなるといったイメージ。ここでいう粒子とはボーカル以外のパートのこと。
attackとreleaseを猛烈に短くしてthresholdもがっつりかけるともはや砂岩くらいの質感になると考えると良さげ。
作業中の曲なので聞かせられないんですが、声を張り上げた箇所でキツくコンプをかけたビフォー(左)アフター(右)のキャプチャ。
「このコンプの掛け方だと音量上げりゃ歪むよね」って4箇所に印つけました。ぱっと見ではほとんどわかりません。
4箇所、具体的には声質に占めるノイズが増えている箇所です。耳の肥えた人なら、声質の変化に気付いて「あ、コンプかかってる」ってわかります。
スポンジが砂岩になるくらい潰すと、隙間が塞がれてバックトラックが聞こえなくなります。
「コンプだとわかるようなコンプの掛け方は避けるべき」とふだん僕が言ってるのは、その手法はダサいよ(流行り廃りはもちろんある)ってのと、この例のようにミックスで大変になるぜというのと2つの理由からです。
丁寧にやるなら、スポンジが砂岩になりかねない過剰コンプ箇所で、コンプへの入力レベルを抑えてやります。
結局これが一番効果的(もともと過剰だったんだから入力を抑えたところでほとんど影響はない)。
もし、Melodyneなどを使用しているのであれば、出過ぎて聞こえる部分(ブロッブス=音符の大きさではなく聴感で判断)を2〜5dBくらい抑えてあげてもいいと思いますし、Soothe等、過剰入力を処置するプラグインを使用して差っ引いてあげるのもよいかと思います。
- Logic Pro : Melodyne (ARA) 動作まとめ – makou’s peephole
- Melodyne と Auto-Tune の2段構え – makou’s peephole
- Oeksound “Soothe” – makou’s peephole
むろん、先ほど書いたように、小さい声の箇所と大きい声の箇所とでトラックを分けて別々にコンプを設定するのも断然アリ。
ほか、大まかな抑揚を均すコンプと細かい抑揚を調整するコンプとの2つを挿す多段コンプって方法もあります。セルフサイドチェーンもアリ。