oeksound “soothe”

Oeksound Sootheは、Dynamic EQの一種で、リリースされるやいなやBobby Owsinski氏のブログで取り上げられています(New Music Gear Monday: Oeksound Soothe Audio Processor Plugin – Bobby Owsinski’s Music Production Blog)。

oeksound : Soothe
oeksound : Soothe

動画を見てもしばらく何のこっちゃかよくわからず。解説によると、こういうことだそう。

もともとボーカル処理が目的で、ワールドクラスの処理を手軽に実現するもの。
旧来のEQと違って、入力されたオーディオの周波数をもとにゲインリダクションを行う。これにより問題の周波数を人力でノッチ処理する手間を省ける。周辺の帯域には影響を与えず適切なタイミングで適切な場所にだ。
たとえば、こういう問題を解決できる。

  • 過剰な摩擦音
  • アコギやウッドベースのキュッというノイズ
  • シンバルの過剰な金属音
  • 明るすぎるギター音やピアノ

ターゲットとなる帯域をGUI上で定め、レンジと感度(スレッショルド)を調整すると、処理される様子がグラフに示される。うまく収められるよう、時には過剰に調整し、驚くようなサウンドを得よう。
デルタトグルで別のシグナルが表示されるので、除去される成分を聞いて確認することができる。徹底的に調整するためのものだ。
oeksoundは「不自然さを最小限に抑えるのに数年かけた。sootheはプリリンギングやクロスオーバー、さらにはダイナミックEQとマルチバンドコンプによって発生する不自然な効果と無縁になるよう仕上げた。解像度を高めたりオーバーサンプリングも活用することで自然なサウンドに処理できる仕組みだ。」と語る。

Soothe その機能

簡単に言うと、冗長な成分や、聴感面で問題のある音成分を気付かれないように間引くもの。
そう書いちゃうとMP3の圧縮技術みたいでもあるけども。

つまるところ、中域から高域にかけての成分を解像度や深さを細かく設定可能なダイナミックEQ
右側に表示されるパラメーター、黒と白がそれぞれハイパスとローパスで、この2点とで帯域を絞りこみます。それ以外のバンドはバンドウィズスが0.2〜6.0までの間で利くパラメトリックでこれらは件の余分な周波数を調整するためのもの。
左端にあるのが利きの強さ(強すぎるとマイクが壊れたような歪み方になる)と細かさ、あとSelectivityはおそらく既定値を超える入力があった際に同じように音量が増加する成分をも抑える機能かと思われます。

一般に、

  • 曲自体に抑揚が大きい中での歌
  • 歌い手の声域面の問題(生理学的な面)で抑揚が大きくなった歌
  • 声域とマイクの特性との相性の面で音量差が大きくなった歌

これらの動的な要素は、レコーディング時に入力レベルを調整したり、ミックス時にコンプのスレッショルドや入力をオートメーションさせるなど、動的に対応しないと自然な心地よさが損なわれてしまいます。
コンプは音量を下げるのでなく押し潰すものなので、デジタルのように処理が律儀であればあるほど窮屈な結果になってしまうんです。
そういったケースで、音量ではなく成分に着目することで、声色をなるべく維持したまま半自動で音量調整するのがSootheの基本機能ということになります。
先の動画のデモンストレーションを聞いてもよくわからなかったのは、聞いてもわからない成分を処理する役割が利いているからってわけですね。
実際に削れる成分をチェックできるのがdelta。つまりモニタリング。

当然ボーカル以外にも活用できて、弦楽器のノイズ軽減をはじめ色んなことに役に立ちそうです。

気づきにくいトリートメントとしてのDeEsser

2,3年前、海外のチュートリアル記事/動画で摩擦音以外にDeEsserを用いる例が立て続けに上がって、そのときにはふぅ〜ん程度の感想でした。
この半年ほど、抑揚の大きな曲やオケの分厚い曲、逆に極端に薄い曲、コーラスの厚い曲のミックスをする機会が多く、どうしたもんかと調べたり試したりする中でふとDeEsserのことを思い出して実践してみたら、たしかに有効に機能しました。
もっと活用を考えられるかなってタイミングでSoothe登場。
DeEsserって本来細かく設定できるものでもないので、Sootheのようにほぼリアルタイムに、かつダイナミックに機能するものは魅力的です。
底力のあるボーカリストの歌の自然さをキープしたまま、なおかつアレンジ面で遠慮することもなく音楽を届けられるならそれに越したことはありません。

活用しどことしては、歌い回しが細かいためガチで作り込みたい音楽や、音量のわりにレベルメーターが大きく振れてしまうボコーダー、それとボカロ等のデジタルな合成音声にも便利そうです。
余談ですが、特にボカロなんかは音程が正しすぎてオケに埋もれやすいのがネック。一時期は極端に歪ませたり、濃いめのコーラスをかけるなんて技法も流行ってましたが、僕が行なっていたのはボカロだけ2〜3Hzほど高めに歌わせること。そうすると音程が使う周波数(ラ(440)とラ#(466.14)の間はポケットになるわけでしょ)の飽和を多少回避できて歌も聞こえやすくできるという寸法でした。バンドなどの生演奏のほうがボカロの声を聞きやすくなるのもおそらく同様にボカロの音程と楽器の音程とが同じ周波数になりにくくなるからじゃないかなあ。

ボカロの2トラック分でまったく同じ内容を歌わせて左右に分けて出力しています。左右チャンネルざっくりと音作りして、右チャンネルにだけRoth-AIRを挿したので、Roth-AIRの効果は左と右で聴き比べたり画面内のメーターを確認してください。
それから、前半はSootheをオフ、後半はSootheをオンにしていて、聞こえ方がまったくと言っていいほど変わらないのに中域高域の痛い感じが解消された上、帯域に余裕ができることも確認できるかなと思います。
画面、拡大できるのでじっくり見たい方はどうぞ(オーディオバッファ大きめなので音と画面に若干のタイムラグが発生している点はご容赦ください)。

現在バージョン1.0.7で安定版にはなっているけれどもまだまだこの手法は奥深そうなので、他社からも同じようなあるいは輪をかけて先進的なものが登場するかもしれません。
ただ、やはり実際にこの問題に直面した経験がない限り、機能がわかりにくそうにも思います。