こういう話、役に立つ人いるかなってことで、最近受け取った 2MIX (音源そのものを載せるわけにはいかない点、ご理解ください)に対する所感を示してみます。
1曲目
曲の全体像はミドルテンポ、おとなしめのオケで、メインボーカル、それに作曲者本人のバックコーラス、と。
マイクのクセとバランス
ボーカルの摩擦音の処理の違うファイルを3種類いただきました。
上の(1)は初稿で、ボーカリストが「摩擦音が気になる!」と修正をリクエストして、全体的にトーンを下げた(2)が派生。(3)は3〜4kHzも持ち上げてカモフラージュしたものと思われます。
ボーカリストの魅力的な息遣いが感じられるのが(1)で、それだけにトーンを下げた(2)は暗く聞こえてしまいます(比較するとだけど)。
最終的に使ったのは、調整のゆとりのある(3)。
マイク2本(型番は伏せる)のコンビネーションで、男性バックコーラスは最高に素晴らしく録れてる一方、女性メインボーカルは中高域〜高域がキツく聞こえ、コンプによる押し込み感を誘発して少し耳に痛いサウンドになってます。
スクショで頻繁に見える縦の亀裂は摩擦音で、リバーブを伴ってさらに強調されてます。
リップノイズもコンプで持ち上がり、クライマックス手前にあるボーカルの見せ場がむしろ耳障りな感じに。
複数マイクのバランシングに絶対的な原則はないのですが、一般論として、複数揃えりゃいいってわけでもなく、高価なマイクを使えばいいというわけでもありません。ボーカリストとの相性、指向性、音源との距離、角度、メンテナンス次第で、悪いマイクもそれなりに、良いマイクも生殺しになります。
少なくともマイクとボーカリストとの相性を想定できるようになると仕上がりや効率ががぜんUPします。
事後処理でDeEsser使うときはタイプに注意
摩擦音の処理に用いるDeEsserには今、指定した一定入力レベルに対してかかるタイプと、変動する入力レベルの一定比率に対してかかるインテリジェントなタイプといったふうに複数の種類があります。
2MIXかつリバーブがかかっている音源に対して前者のタイプを使うと、ドライ音を抑えられてもリバーブのウェット音がスルーされ、結果、EDMのポンピングエフェクトみたいになっちゃうので、(2MIXにDeEsserを施すことは滅多にないと思いますが)使うならせめて後者のタイプ。
↑該当箇所のスペアナ(左上)と各種ディエッシングプロセスの反応(パラレルで拾ってる)をキャプチャしたもの。
2MIXにノイズ除去
除去したノイズ(リップノイズと吹かれ)だけ表示させてみたのがこちら(処理前と処理後の差分取っただけ)。
なお、レコーディング時にこうしたノイズが皆無ということはほぼありません。歌唱者や声優/ナレーターにも最低限の技術は必要ですが、ノイズの有無で演者の能力を測るのはちと拙速。
理屈的にどうしたってノイズが発生する文字列もありますし(よく例に挙げられるのは「Thomasの子を意味するThompsonの”p”字は、鳴らないように発音できないから綴りに含めちゃった」ってやつ)、情熱的に歌えば破裂音をはじめとした子音も強くなります。
ピッチ補正もですが、この手の技術はなんだかんだ素材を劣化させるわけで、補正が必要なければ歌唱者の魅力を産地直送の新鮮なままお届けできるんです。適当に歌っても直してもらえばいいと考えるのは、もっぱら労力じゃなく聞き手に対する誠意の点で僕は賛同できません。
さて今回は時間があまりないってことで、2MIXに対して、目立つ6kHz前後をターゲットにSootheを設定し、全体にRothAIRを極薄でかけて馴染ませ、MSとマルチバンドを組み合わせて、質感と帯域ごとのバランスと広がりを調整して完了としました。
余談ですが、この間ちょっと試しに10kHz以上の帯域にRXでDeCrackleをかけたら少し声が瑞々しくなりました。
2曲目
これはスクショ見てもわかんない…。
マイクは1曲目と一緒と思われます。アレンジ及びミックスは別の人。ご自身、ミックスが不得意と仰ってました。
でもドラムが、たぶんCubaseのプリセットだと思うのですが正直な音でミックスされていてとてもイイ。
気になったのはリバーブのディケイ感と楽器の定位。
発振気味に響くリバーブは避けたい
楽器でもボーカルでも、ビブラートがかかっていない長音にリバーブがかかったときに発振(ピーとかキーンとかいう感じ)したような余韻が残ると気持ちよくない。シンプルな仕組みのリバーブおよびコンボリューションリバーブは(音の揺らぎの少ない)打ち込み音楽に実はあまり向いてません。
なので、リバーブを設定するなら最初っからビブラートのかかっていない長音の箇所でいじるといいです。
ホール/ルーム/プレートなどのリバーブタイプでも発振を緩和できますし、ふだんあまりいじらないパラメーターを少しいじるだけでも効果ある場合があります。
ドライなボーカルがオケに馴染みにくいのは、オケの実在感に比べてボーカルの存在が間近すぎるからで、もしドライな雰囲気のままオケに馴染ませたいなら左右でわずかな時間差をつけた30〜70msecのショートディレイを超うっすらかけてあげる(要するにアーリー・リフレクション)だけで空気感が伴われ、少しボーカルが後ろに下がって聞きやすくなります。
定位は楽曲を一通り聞いて決めたい
ピアノ音色に逆相が出ていて、ピアノの低音が右後ろから聞こえるという少し違和感ある音像になっていました。
元凶はたぶんピアノ音色それ自身のステレオ感が広すぎるせいと、それを少し右に振っているせい。ギターも右に振られていて、箇所によっては左側に誰もいなくなります。
もし片側に誰もいない箇所を故意に作るのであれば、曲中、もう一度同じ箇所に差し掛かったときに今度は逆側に寄せる、そんな帳尻合わせをよくやります。
とはいえ、その曲をショートエディットするときに帳尻合わせ箇所がカットされてしまうので、ウケがよさそうでショートエディットが必要になる曲では出現スパンの長い演出は避けたほうがいいと思います(だから、ミックス前に楽曲の用途などの情報が構想の材料として必要)。
といっても多くの場合、帳尻合わせは自己満足の範疇だと思うのでそこまで気にしなくてもいいとは思います。
全体的な定位(各音源の配置)について。
音色がモノラルに近いほど、ほんのちょっとでもパンをどちらかに振るだけで輪郭が出るもの。それ以上振ると浮いて聞こえたり大袈裟に聞こえたりします。
思い切ったやり方はもちろん大事なのだけど、一度素晴らしく粒立ちのいい曲を聞くとギャフンとなって考えが改まりますね。最近はあんまり無いんだよなあ(自分のも含めて)。