Stereo Width と Imager

たまに把握できていない方がおられるっぽいので、ここでフォローしておく。
わかっている方にとっては無駄な内容となる点、ご了承いただきたい。
ファイルデータサウンド(聞こえ方)と区別して書いたので、こちらもご注意いただければと。

モノラル/ステレオ

1つのチャンネルのみ持つものがモノラルで、2つのチャンネルを持ち左右別に分けて扱われるものがステレオ。
ファイルでいうと、ステレオは1つのファイルの中にインターリーヴという形式で2つのオーディオデータを持つ。
したがって同じ音声フォーマット(サンプリング周波数、ビットデプス)で同じ再生時間のオーディオファイルは、ステレオデータだとモノラルデータの2倍のファイルサイズ(容量)になる。

イメージとして思い浮かべてもらうとしたら、トランプの黒いスート26枚と赤いスート26枚を両手シャッフルでパタパタと交互に織り込んで52枚になった状態がインターリーヴのステレオファイル
一方のスート26枚だけだとモノラルファイルで、これをもう一方の26枚と対にしてステレオデータとして扱うには、DAW等のソフトにこれでワンセットだと認識してもらわないといけない。一方の枚数だけが少ない場合は正しくないステレオデータの扱いとなる。

パン、イメージャー

ステレオデータに関する勘違いとしてたまに聞くのが、LとRに完全に音が寄っているものをステレオと呼ぶのだというもの。
もちろん、そうではなくて、LとRとの間のどこに音があるかを忠実に記録したものがステレオで、これは(結果的に)2つのチャンネルに分けて整理できちゃう。
つまり、ある音が中央より左寄りで鳴っている場合は、ステレオデータのLチャンネルで大きめ、Rチャンネルで小さめと音量を尺度として記録され、それを鳴らすときちんと中央よりも左寄りで鳴っているように聞こえる、と。こういうことに過ぎない。

もともとモノラルつまり1chのものを左に寄せたりステレオつまり2chのものを丸ごと左に寄せたりするぶんには、パンポットのノブをいじればよい。
しかしステレオの広がりを狭めたり広めたりする場合には、(スプリット形式のオーディオデータでもなければ)ステレオウィズス(Stereo Width)を調整可能なイメージャーと呼ばれるユーティリティを用いる。

先ほどの2つ目のステレオ配置をもとにステレオウィズスを調整するとき、狭める処置については説明する必要がないくらい想像通りなので説明を省く。

ここでまた1点よく耳にする勘違いがあって、この広がりを0%にしたときは中央から音が聞こえるためサウンドとしてはモノラルであるけれども、中身は2chなのでステレオデータだということ。つまりステレオデータのモノラルサウンド
この状態が冗長であるという人もいれば、このほうが確実だという人もいる。

イメージャーで音を広げたとき、LとRとで記録できる範囲を超えてしまう音があったとき、上の図のようにその逆人格つまり逆相の音が逆のチャンネルに出現することがある。原則として望ましい状態ではない。
ここでもまたよく耳にする勘違いがあって、「ステレオで目一杯広げる」というのはあくまでそうした逆相が出現しない状態まで広げることであり、逆相が出ている状態は「ステレオ目一杯」とは言い難い。色んなケースがあるので十把一絡げには言えないけれども、十中八九「これはダメ」と言われるはず。
とはいっても近年のミックスは最終的に(厳密に言えば)逆相が多少出るくらいまでイメージャーで広げてしまう。
わかっててイメージャーでガッツリ広げてる人もいるし、訳もわからずやってる人もいると思うが、「このミックス、このプロジェクトだとマズいんだよね」となったときに対応できる人のほうが、少なくとも僕にとっては信用できる。

あと、以前知り合いの50代くらいの人がおそらく勘違いしてるだろうと思ったことがあって、モノラルの音源に対してモジュレーション系のステレオエフェクトを掛ける際にそのLFOが左右で逆相であることと、音源自体が左右逆相なのとは別。「ほー、逆相使いましたかー」なんて仰ってたけど、ステレオのモジュレーションエフェクトでLFOが左右逆相なのは至ってオーソドックスで、別に驚くことではない。
とはいってもだ。LFOが左右逆相であることで生み出される効果によって左右のサウンドの差異が相対面で大きくなり過ぎてしまうのも事実。

モノラル再生されること

ここで、あるテストデータをLogicに打ち込んでみたものを取り上げておく。

パンやイメージャーを調整したもの

パンやイメージャーを調整したもの

ドラムは中央定位でやや左右に広がりがあり、エレピは完全右寄せ、ピアノは完全左寄せ、ベースは倍音の限りなく少ない低音で完全中央(モノラル)にしてある。2小節ごとにパラメーターを変更していて、

  1. 無加工のステレオデータ
  2. 左chのみに寄せた
  3. 右chのみに寄せた
  4. ステレオ音声の広がりを0%にしてモノラル音声にした
  5. ステレオ音声の広がりを200%にした
  6. モノラルにして右chを逆相にした

これを手持ちのiPhoneで聞くと、

  • 2ではドラムが小さくなってエレピが消え
  • 3ではドラムが小さくなってピアノが消え
  • 4は1と同じ聞こえ方
  • 5は音量が小さめ(スマホじゃなくてもそうだが)
  • 6では完全に音が消える

いわゆるふつうのモノラル化の処理が行われていることになる。
スマホのスピーカーで聞いたり、モノラル環境で音楽が再生されることを想定するなら、ミックスバランスが崩れるのを避けるには完全にLRに振ったり逆相混じりの処理を行わないのが賢明ということになる。
相当昔から言われていることなので今さら振り返る必要もないだろうけど。

ステレオ化処理後のモノラル再生

ついでなので、先ほどのドラムのトラックに、手元にある幾つかのステレオ化”的”処理を加えたものも載せておく。

  1. ノーマル
  2. 左右逆相
  3. LogicのStereo Spread
  4. NoiseMakerのBinauralizerで後ろに定位したもの
  5. Xfer RecordsのDimension Expander
  • 2の左右逆相は先ほどのと違ってモノラル化せずに処理してるのでリバーブやアンビエンスなど広がりのある要素だけ音が残っている状態
  • 3はほぼ1と変わらず(モノラル化したものと、モノラル化した上で3の処置を施したものだと基本的に同じになる)
  • 4はだいぶ奥に引っ込み(これもスマホじゃなくても似たような具合)
  • 5はディレイベースなのでフランジングがかかった状態になる

ぞんがい、2の左右逆相よりも3のStereo Spreadのほうが左右逆相っぽく聞こえてしまうのが厄介だが、モノラル化しても基本的にサウンドに変化がないのは3のほうだ。サウンド的にはこの世のものならぬ気持ち悪さがあるので、さじ加減に気をつけてもらいたい。