Vengeance Sound “Avenger 2”

Vengeance Sound “Avenger 2”

11/24にリリース予定ってことで、この記事を執筆している時点ではデベロッパーのサイト上でもカウントダウンが示されているのみですが、ありがたいことにVengeance SoundからAvenger 2のNFRを頂戴したので、少しいじってみました。結論としては、なかなか凄いです。

いっとき、SerumやSpire以外にもう少しEDM系楽曲に近道なシンセが欲しいなあってことで、AvengerにするかNexusにするか悩んで後者を選んだのが個人的には失敗だったかもなあと。最新版ではNexusも遥かによくなっているようですが、自分が手を出したバージョンでは作り込み要素がちと薄すぎ、うちでは「たまに使うけど目くらまし」程度にとどまりました。

Avenger 2については上のスクショで見るように、K-v-Rでだいぶ早い時期から予告とスニークプレビューがアップされていたようですね。
上述の「少しいじってみた」は決して嘘ではないのですが、もっぱらK-v-R上のプレビュー動画を見たほうが圧倒的にわかりやすく、驚きも大きい。

プリセットしか使わんよって人には、正直、多機能すぎて困惑すると思います。なので、以下記していくのは、自分で音色作成したり自分好みにプリセットを調整する人向けとなります。

スペクトルベースの加工

最も驚いたのはスペクトルに基づいた加工を行える部分。
これ自体はDS ThornやAlchemyのようなコンセプトではありますが、解像度に雲泥の差が感じられ、できることも多い。
PCM、それもドラムループなどを入力信号として扱った場合には、タイムストレッチやピッチシフトを最小限の劣化で扱えるだけでなく、ダイナミックにそれを変化させたり、バンドを制限してフィルタとは一味違うサウンドを得られます。もちろん素材との相性はあるでしょう。だけど、ちょうどいい素材に対して突飛な発想で加工を行なったときには、聞く人を二度見(聞)させるようなサウンドを作れるんじゃないかなと。
また動画でもデモンストレーションされている通り、ピアノやボーカルの素材でもかなり大胆かつダイナミックに加工でき、今まで楽曲の目玉となるような音色を苦労して作ってきたのは一体何だったのかと思わされます。

とはいえ、冷静に考えてこの手の処理はだいぶCPU負荷が高い。いかに動作の軽量化が図られたとはいえ、一定レベルのPCじゃないと有効活用しづらいのではないかと思いますね。ゆくゆくGPU Audioの技術が使えるようになっていくのか知りませんが、もしそうなったとしたら文字通りゲームチェンジングなことになるかも。

ランダマイズに対する縛り

フィルタのパラレル処理、格段に設定自由なアルペジエイター(ラチェット)、Valhalla DSPのようなリバーブなど他にも画期的な部分が多々あるんですが、ここではうちの日記でもたびたび触れてきたランダマイズについて。
うちでよく記してきたのは、疑似乱数という、要は再現性を伴ったランダム化なのですが、Avenger 2においてはランダマイザーの出力値をDistributerによって重み付けして配分するという、手間こそ増えるけど結果の実用性を高める手法が採用されています。
たとえばアルペジエイターをランダムにしたいが音程をランダムにされると曲のキーも何もあったもんじゃない(ミニマルテクノ作るときには重宝だが)。そこで、音程ごとに「稀に使用される」「優先的に使用する」というふうにパーセンテージで設定するわけです。これは同時に音長、オクターブ等へも反映でき、結果的には経るべき段取りが増えるものの、より自分好みの結果が得やすくなるといえます。

詳しく確かめてはいないのですが、たぶんアルペジエイターのみの機能でしょう。そりゃいちばんルールを必要とするセクションですもんね。

エンベロープフォロワー

これ自体はそんなに珍しい機能ではないんですが、ルーティングの自由度も手伝って、内部でサイドチェーンを完結できるメリットがあります。設定も熟慮されていて、実用性も応用性も高い。
動画では比較的シンプルな例を示していますが、工夫次第ではかなり奇抜なことができそう

総じて

冒頭で記したとおり、本気で自分だけの音楽を作りたい人、他のクリエイターが腰を抜かす用な音色を自分の手で作り上げたい人にとっては、とんでもなくパワフルなシンセと言えますが、一方でプリセットのみ使用する人にとっては確実に手に余ると思います。またファクトリープリセットについても正直即戦力とは言い難い。間違っても、買えば自分がパワーアップするという代物ではないので、購入の前にいったんデモ版を試してみて、御しきれるか判断したほうがいいと思います。

追記:

マニュアル通読していて気付いたのですが、特徴的な機能のいくつかがmacOSで動作しないようです。正直macOS環境では存分に能力を発揮できないのではないかと思われ、推すならWindows環境の方に推す、って感じです。
ただ、プリセットさえ使えればいいのであればmacOSでも問題ないかも。


余談: 今どきの導入可否判断の仕方について

NexusやCurrent、Serum、Spire、Pigmentsも含め、大雑把に言って、ある程度機能を整えたものをリリースしたらあとはプリセット音色の販売で収益を上げるってスタイルを見かけます。それが悪いとは一切思わないし、プリセット音色デザイナーという仕事が爆誕してむしろ新時代到来を喜ばしく思っているのですが、ユーザー的にはシンセ単体の価格プラス幾らかのプリセット購入予算ってのを考慮する必要が生じるかなと思います。
となると…

  • デフォの状態でプリセットがどの程度充実しているか
  • どのくらいのペースや価格でプリセットが追加されていくのか
  • サードパーティがプリセットを提供できる仕組みを備えているか。
    それに先立っては、
    • どの程度このシンセ所有者が増えるか=人気を呼ぶか
    • どの程度ソフト自身がアップデートされる可能性があるか、つまりデベロッパーに体力がありそうかどうかが大きく影響しそう

が、今どきの導入可否判断の目安になってくるんだろうなと思います。
レビューする側もその辺りをチェックポイントとしたほうがいいかもしれませんね。

Currentに関しては当初サブスクの予定だったため、プリセットがデフォでそこそこの数揃っています。拡張機能部分の安定性や実用性に不安があるもの、チョイスとしては全然悪くありませんが、リリース時のごたごたがかなり悪い印象を与えてしまったのか、今のところ評判を聞きません。観測範囲の問題かしれんけど。

またVitalに関しては元がフリーでも使えて、コミュニティを育ててゆく構想だったっぽいですが、今ひとつ育ちませんでしたかね。機能は素晴らしいけど残念ながらWavetableデータベースを参照しにくいのと、Serumのような強い音を出すのを今ひとつ苦手としていたことが原因かなと。軽く、かつ音色切替時にスパイクを起こしにくい、って理由で自分はよく使うのですが。