Logicのオートメーションについて少し整理しておきます。
目次
(1) オートメーション不可の項目
オートメーション不可のパラメータがあります。
- プラグイン・インストゥルメントの音色やプラグイン・エフェクトのプログラムの変更(オートメーション可能な場合もある)
- プラグイン・インストゥルメントやプラグイン・エフェクトの設計過程でオートメーション情報の提供し忘れ
厄介なのは、後者の場合、MIDI FXのModifierを差し挟むなどの無茶をしてもオートメーションを記録できないこと。
(2) オートメーションを使用する場面
- 演奏表現に直結するもの(MIDI CCなどをはじめとした旧MIDIドロー→現在のLogicでは”オートメーション”に統合)
- サスティンペダルやモジュレーションホイール、ピッチベンド、チャンネルプレッシャーなどMIDIの規格で定まったもの
- ギターのチョーキング(bend)やペダルボードなどMIDIの規格を拝借して使うもの(cf. MIDI Learn)
- ミックス目的:楽曲再生中の聴感を整えるOR録音されたオーディオを曲の展開に合わせて調整
- 楽曲の展開によってトラック同士のバランスを変更する、局所で重要度の低いトラックの音量を故意に下げる
- デバグとして:ただし可能ならオートメーション以外の方法を用いたほうが良い
- 無音部での不要な音(ミスピッキング、ブレスノイズ、足音)のミュート
- クリエイティブな目的:これが重要視される傾向強いけど、凝り過ぎて収集つかなくなることが多い
※思いつきを重視するからこそ、システマチックに実装するのが安全。そうしないと二度と開けないデータになるリスクがある。- DJ的手法:フィルター、トラックミュート、ザッピング
- リバーブ等エフェクトの操作記録
(3) トラック・オートメーションとリージョン・オートメーション
二択です。
- トラック・オートメーション:トラックの規模で記録するオートメーションで、音量やパンに使用するのをお勧め。
- リージョン・オートメーション:MIDIやオーディオリージョン内に記録されるオートメーションで、従ってリージョンの存在しない箇所には記録不可。オートメーションパラメータはイベントリストやステップエディタでも調整可能。
トラックミュートや瞬間的なリバーブなど、高速な値変更を伴う際に使用するのをお勧め。 - 旧MIDIドローはリージョン・オートメーションに統合。
トラックヘッダのオートメーション欄の左端に、トラック・オートメーション、リージョン・オートメーションをそれぞれOn/Offするボタンがあります。
トラック・オートメーションとリージョン・オートメーションとの間で同一のパラメータを操作することは可能ですがだいたいグチャグチャになります。ただ、絶対/相対をトラック・オートメーションとリージョン・オートメーションとで使い分けるなど活用しがいはあります。
またトラック・オートメーションとリージョン・オートメーションとの間で同一のパラメータで同一タイミングに異なる値が出現した場合の優先度はプロジェクト設定の一般で設定します。
(4) 記録のモード
オートメーションのモードはRead, Write, Touch, Latchで、録音モードで再生する必要はなく、ただ再生中に操作すればOK。
トラックヘッダのオートメーションパラメータ欄の左端に、そのオートメーションをOn/Offするボタンがあります。
- Read:記録したオートメーションを読むとき用。ぶっちゃけ「記録しない用」。
- Write:書き込み用。基本的に使うことはないと思う。
- Touch:記録時にオートメーション対象のパラメータから手を離すと値がハネ戻ります。
- Latch:記録時にオートメーション対象のパラメータから手を離すとそのときの値が維持されます。
トリムと相対のモードは便利だけど視認性が高いとは言えないので、オートメーションによる相当な作り込みを期すのでない限り使わないほうがいいと思います。またこの2つのモードのOn/Offは(説明しにくいけど)わかりづらいので、目で確認したほうがいいです。
(5) パラメータの選択
オートメーション・パラメータ・リスト内のプルダウンで値を探してもいいのですが、ここに表示されるのはプラグイン等の中で内部的に命名されたパラメータ名で、画面に表示されているパラメータ名と違うことがよくあります。
またプラグインが膨大なパラメータを提供している場合、大量にリストアップされるパラメータ名からお目当てのものを探すのは大変です。
ミックス>Readモードでオートメーション・パラメータを自動選択にして、オートメーションさせたいパラメータに触れることでそのパラメータが自動的に選択されるようにしたほうが圧倒的にラク。
ただ、常時このモードがOnになっていると地味にウザいのでキーボードショートカットを登録してOn/Offできるようにしておくといいです(うちではF6に登録)。
なお、この自動選択がOnになっていてパラメータに触れてもアクティブにならない場合、冒頭に記したようにそのパラメータはオートメーションに非対応と考えていいです。
(6) オフライン・オートメーションおよびカーブの設定
楽曲再生中にオートメーションを記録していくこともできますが、楽曲を停止したままでオートメーションの制御点を鉛筆で書いたり、ポインタで値を変更(後述)することができます(オフライン・オートメーション)。
通常は直線しか描けないオートメーション・カーブですが、オートメーション・カーブ・ツールを使うか、Control+Shift+ポインタ・ツールで曲線に編集でき、このとき、線上を縦にドラッグするとカーブ、横にドラッグするとS字カーブになります。もう一度線上をクリックすると直線に戻ります。
(7) 値の変更
- トラックヘッダのオートメーション・パラメータの右側に表示されるトリムフィールドで、全体のオートメーション・パラメータを一括調整できるもの。
- Control+ドラッグで細かい調整が可能。
- リージョン・オートメーションのパラメータなら、イベントリストまたはステップエディタで値の変更が可能。
- トラック・オートメーションのパラメータなら、Control+⌘+Eでオートメーション・イベント・リストとして値の変更が可能。ただしトラックにリージョンがない、またはトラック上の2個以上のリージョンが選択されていて、なおかつオートメーション・イベント・リストの表示>リンクがコンテンツになっていないとうまく表示されないっぽい。
- 最大値が既に入力されている手前に最大値を追加入力しにくい(スクショ参照)仕様なので、既に入力されているほうの最大値をOption+ドラッグでコピーするなど工夫しないといけない。イベントリストを開いて編集してもいいけど。
(8) コピペ等の操作
- オートメーション・データの削除に関しては、消しゴム等で消さなくともトラックヘッダを右クリックして「表示中のオートメーションを削除」「〜統合」「すべてのオートメーションを削除」することが可能。
- シンアウト操作は、MIDI CCを除いて現状不可能。MIDI CCの場合は編集>MIDIイベントを削除>重複したイベント
- オートメーションのコピーに関しては、コピーしたい範囲のオートメーション・カーブを選択してOption+ドラッグで可能だが、たまに機能しなくなる。
この場合、クリックしたあとOption押下してのドラッグ、またはOption押下のあとクリックしてのドラッグと手順を若干変えることで正常動作することが多い(現象は状況によって異なるっぽい)。 - 直近のLogicのアップデートによりオートメーション・スナップがサブディビジョンと独立し、デフォルトの「自動」だと粗めのグリッドにスナップするようになっている。細かいオートメーションを好む人は1/16や1/16Tなどにしておく。ほんとに面倒ならスナップをOffる。
(9) 複数レーン表示
ピアノ・ロールではオートメーションを同時に複数表示することが不可能(レイヤーとしてうっすら見えるだけ)ですが、メインウィンドウではオートメーション欄の左端の右向き矢印をクリックして広がったオートメーション・レーンのトラックヘッダ下部にある+ボタンをクリックすることで(使用済みのオートメーション項目が優先される形で)表示レーンを増やせます。
ぶっちゃけ、ピアノ・ロールの狭いオートメーション表示でオフライン・オートメーションを書き込んでいくくらいなら、メインウィンドウで複数レーン表示して確認しながら入力したほうが確実だと思います。
(10) 代替トラックとオートメーション
トラックメニューで有効化できる比較的新しい代替トラック機能ですが、トラック・オートメーション情報は代替トラック間で共有されてしまうので、オートメーションを個別に管理するならリージョン・オートメーションを使用したほうがいいです(僕は使ったことない)。
ただし非アクティブな代替トラックも表示した状態では、2レーン目以降の代替トラックをアクティブ(スイッチをOnにするだけの状態)にしてもリージョン・オートメーションは機能こそすれ表示がされない中途半端な仕組みなので、代替トラックとリージョン・オートメーションの兼ね合いには多少注意が必要と思われます。
(11) Smart ControlやMIDI FXとの絡み
ややこしくなるのでなるべく使わないほうがいいかもしれませんが、Logic純正のインストゥルメントによってはSmart Controlでオートメーションせざるを得ないものもあるかと思います。オートメーションパラメータのリストにSmart Controlの各パラメータがリストアップされるので選択すればよいだけ。
オートメーションデータを他のパラメータに移植したり、1つのオートメーションで2つのパラメータを動かす必要がある場合には(試したことないけど)Smart Controlを活用するのも妙手かと思います。
また、Smart Controlのスケールに手を加えることで、オートメーションとして描くカーブと実際に現れる効果との辻褄を合わせたり、場合によっちゃとんでもない値のジャンプを作ることもできるので、わざわざ変な効果を出したい場合にはいじるのもよいかと。
なお、ここにおいても、プラグイン側で提供していないパラメータを操作することはできません。
(12) Kontaktにおけるパラメータ設定
KontaktではMIDI CCによるオートメーションとホストオートメーションとの2つのオートメーションを受け取ることができ、これらはKontakt音源側で設定されている場合もありますが、勝手に変更することもできます。
(13) 所定の場所にバウンス(=インプレイス)
ボリューム/パン等のオートメーション込みでインプレイスレンダリングすることが可能です。
プラグイン・エフェクト等の設計によっては予期せぬレイテンシーが発生することがまだ稀にありますんで、限りなく正確なインプレイスを行いたいときにはマスタートラックのプラグインをOffる、プロジェクトファイル自体を立ち上げ直す(ジャンクの削除)ほうが無難かと思います。
それでも厳しいときには、プロジェクト内に必要トラックだけを置いた別プロジェクトを新規に作成してあとでデータをマージしたほうがいいかも。
原則としてエフェクトプラグインをバイパスしてインプレイスした場合には、インサート・エフェクトおよびセンド・エフェクトの状態が新規トラックに丸ごとコピーされます。若干の誤動作が発生することもあります。
- 直前に使用を中止して削除したオーディオトラックがあるとき、その不使用オーディオトラックのインサートおよびセンドの状態が復元されることがある。
- インサートエフェクトを挿したトラックを削除した際にメモリやプロジェクト内にジャンクデータが残るという昔のバグが完全には解消されていない可能性があるため、うちでは厄介なトラックを削除したあとなるべくLogicを再起動するようにしてる。
- いったんエフェクトプラグインをバイパスしてインプレイスし、そのインプレイス結果のオーディオファイルを削除し、再度特定のインサートエフェクトのみをOnにしてエフェクトプラグインをバイパスせずにインプレイスレンダリングすることで、面倒なインサートエフェクトのコピーの手間を省くことができる(自分はMelodyneを使用したトラックのインプレイス時によく使用する)。
※たぶんもっとラクな方法があると思う。
なおインプレイス時にリージョン・オートメーションは無視されるケースがあるようです。
(14) タイムに厳密なオートメーションを実現したいとき
どうもまだパーフェクトにはレイテンシーの問題を解決できていないLogicにおいて、たとえばザッピングのように素早くパンを左右に移動させるなどしたい場合。
- リージョンを細かく刻んでリージョン・オートメーションを書く
- オートメーションを使わず、インプレイスしたリージョンを置いたトラックを新たに増やす
- 機能>選択範囲の処理を適用
要するに動的な状態をなるべく静的な状態にして置き換えてやるのが得策かと思います。
ただ、膨大にトラック数が増えて一覧性が低くなる(=全体像が把握しにくくなる)ので、フォルダ機能を使ってまとめたり、当該のギミックのみバウンスしてサンプラーに突っ込むなど妙ちくりんな方向に逃げたほうがいいかもしれません。