モロモロ対策してもノイズが混入してしまう可能性はなかなか0にできないもので、例えば1か所のノイズさえ無ければOKテイクってとき、リテイクするかどうかは悩みどころです。
ノイズを取り除く方法を知っておくとリテイクが避けられてGood。
※恒例の注意書きとして、ホントはこういう話は一流の方に教わっていただきたい。
あまり見かけないから記しているのであって、初歩的なガイドとでも捉えていただければと。
【ポイント】
- ノイズはボーカリスト、声優自身の技術でかなり抑えられる
→食事や飲み物、体調、体質、演技/表現の影響が大きい
※人気のあるボーカリストや声優の技術は必ずしも高くない - 性能のよいマイク、整備された環境ほどノイズがしっかり拾われる
- ミックス、加工でノイズが増幅される可能性が高い
- 歌やセリフなど何度も繰り返し耳にするうちに、気にならなかったものが気になり出す可能性が高い
→多く聞いてもらいたいのなら念入りに処置すべし
→用途に応じて処置の度合いを変えたほうがいい - ノイズ部分をカットして尺詰めになるような編集は望ましくない
目次
ノイズの見つけ方と効率
ノイズが乗っているかどうかを見つける方法について。
聴覚と心理面
ノイズが乗っていると意識して音源を聞くことが大事。ヘッドフォンは必須。
聞くだけでノイズを見つけられるようになるには多少訓練が必要ですが、すぐ慣れます。一度慣れちゃうとむしろノイズが気になってしょうがなくなるレベル。
ノイズのチェック時には早回ししたりせず必ず等速再生が原則。ノイズが可聴域外に出てしまってはチェックできません。
波形編集ソフトの操作面
目視では波形を縦横にある程度拡大表示できないと見つけられないことが多い。
しかし最大限に拡大できればいいというものではなく、特定の倍率でだけノイズ箇所が識別できることもあるので、拡大縮小がパパパッと操作しやすいものがベスト。
ノイズを発見した!と思って再生停止したときにそのノイズ箇所を見失いかねない挙動をする(再生開始位置に飛んで戻るとか)波形編集ソフトはNG。
上記いずれの場合もそのソフトの環境設定やメニューで問題が回避できるならしっかりと設定しておく。
環境設定以前に、拡大時に嘘の波形を表示するものは絶対にNG。
波形を見ただけでノイズの場所がわかるようになるまでは若干時間がかかります。
ともかく猛烈に時間のかかる作業なので、複数のテイクがある場合にはテイクを選んでからノイズ除去するほうが効率的。
(ノイズを処置してからじゃないとテイク選びできないとかいうディレクターがいたら、肩書のわりに経験が浅すぎるので警戒したほうがいいです)
発音の合間のプチノイズの除去
例01は口腔内の唾液の泡がはじけたもの。
ポストプロダクションとして歌やセリフにコンプ処理したり、曲のミックスでブリリアントに聞こえるような加工をするとノイズが持ち上がっちゃいます。
したがって、録って間もないものを聞いて目立たないからといって無視はできません。
対処方法
- ノイズ部分だけをゼロクロス(下記リンク参照)で選択して音量をがっつり下げる(8〜24dBくらいかな)
- 高域をがっつり下げる(声の質によるが800Hzくらいから上)
- あえてゼロクロスで選択せず、一定の狭い範囲を選択してインターポール(補間)させるのも効果的
- 他の場所からコピペして上書きする
該当箇所を完全ミュートすることは滅多にありません。直前の言葉の残響が途切れたりしてかえって傷跡が目立つ場合があるから。
残響があるような部屋で録るなというのも理屈として間違いではありませんが、感情MAXで叫ぶようなセリフではさすがに残響を拾いますし、何度もいうようにマイクの品質が高ければ微細な残響でも拾ってしまうもんです。
曲の場合は、この傷跡がある程度オケでマスキングされるので、完全ミュート、具体的にはオートメーション、あるいはリージョンをカットすることで処置するのもOKです。
息継ぎは?
歌やセリフの息継ぎ「発音の合間のノイズ」の部類ですが、原則、息継ぎ自体は歌やセリフを構成する要素と考え、除去しません。
ただし息継ぎの中に入るノイズは除去します(これが大変)。
ちなみにですが、作品の完成度に対する意識を持ったボーカリスト/声優ならだいたい、いま自分が実際に出している声だけでなく、息継ぎや間(ま)など、声として鳴っていない部分にも目を向けて取り組んでいます。もちろん体調や食事も。
特に意図も指示もなく息継ぎの長さ速さや量が毎テイクばらばらだと、「あ、こいつ何も考えてねえな」って思われますんで、「どうせ編集で直せる」とか考える前に、自身の価値を高めるために一撃必殺で取り組んだほうがいいです。
喉鳴り
力強い歌を歌われる方に多いのが、喉がグリッとかゴロッとか鳴るパターン。
基本、表現の一部として対処は不要ですが、どうしても、いいセリフはたくさん聞いてほしいし、いい歌はたくさん聞いてほしい、そして何度も聞いてもらうほどノイズのように聞こえがちなので、ためしに数回聞いて気になってしまうようであれば処置したほうがよいでしょう。
対処方法
ミュートで処理すると嘘くさくなるので、息遣いを残しつつ低めの帯域を削ります。
発音中のノイズの除去
厄介なのが例02のように発音中にノイズ乗っかったもの。
発音中に唾が弾けたり、喉が鳴ったり、あるいは録音機器の不調で起きます。
見つけるには耳と目を駆使する以外なし。再生スピードを変えられる機能があればスピードを落としてもいいですが、かえって見つけにくくなることもあります。
おすすめはデータ再生時のプレビューチャンネルに対して高域をブーストするEQを噛ませること。
うちの環境ではPreSonusのAudioBoxのコントロールパネルで設定できます。
対処方法
- 他の場所からコピペして上書き
- 手で波形を書く
だいたいの場合、同じ形の波形が数サイクルにわたって並んでいるので、波形の1、2サイクル分どこかからコピペして上書きしてやるのがラクです。
多くの場合、一定の範囲内にまとまって数箇所この手のノイズが集中します。
なので一箇所ノイズ潰したからOKとは油断せずに周囲に残骸がないか確認するといいです。
猛烈にしんどいのが、息継ぎや摩擦音中に混ざりこんだノイズの対処。
形がおかしいところを見つけて、あの手この手で試してみる他ありません。
手っ取り早いのは、近似した息継ぎや摩擦音を他からまるっとコピペしちゃう方法ですね。
コピペする長さに充分に気をつけてください(後述)。
Sound Forgeをお使いの方、特にバージョン7,8は、ゼロクロス検出ONの状態で範囲選択すると1サンプル分長めに選択されるので、コピペ時に注意です。
RXによるレストレーション
ノイズ除去や損傷した音源の修復(レストレーション)に特化したソフトウェアが近年少しずつ増えてきています。
ノイズ例03は、iZotope RX6でノイズ箇所を拡大したもので、波形表示と音声スペクトルがレイヤー表示されて非常に探しやすくなっています。
処置できるノイズの種類およびその処置が数種類用意されているので、そのノイズに適した処置を加えましょう。
“吹かれ”や”歪み”など単純な波形編集ではどうしようもないものも処理できます。
特に近年はハイレゾでの録音が増えてきて(繰り返しますが、そのぶん微細なノイズまで拾いやすくなる)、波形オンリーでの処置には限界が訪れつつあるので、将来的なことを考えて導入しておいても損はないと思います。
インテリジェント・ノイズ・リダクション
特殊な例になりますが、思いのほかこの手のノイズリダクションを妄信する方も多いようなので釘刺しとして挙げておきます。
室内ノイズの対処で楽なのがノイズリダクション。
膨大なバンド数のEQで帯域をカットすると考えたらよいでしょう。
例04はテイク中で歌っていない部分の音を拾ったいわゆるノイズプリント。
録音ファイルに終始このくらいのノイズが加わっていると考えられるわけですから、それを前提としてオーディオデータを処理してしまうものです。
問題は、ノイズってそもそも色んな帯域、音量にわたってランダムですごい速さで動いたものを指しますんで、いかにインテリジェントな仕組みとはいえ完璧には消えません。目立たなくできる程度。
そしてノイズが大きい場合、この手法によって処置を加えたことが露骨になります。極端にいうと高圧縮したMP3の音みたいになります。
注意点
- 終始安定したノイズが鳴っていることを前提にした処理なので、たとえば強くコンプをかけた状態で録音してしまっている(=S/N比が一定じゃない)ものには、かえってノイズのムラを与える結果になる。
- 無音部分でのノイズ状態を記憶させるのがノイズプリントであるため、無音部分がミュートされるいわゆるノイズゲートをかけた状態で録音してしまったものはどうしようもありません。
したがって、インテリジェント・ノイズ・リダクションを使用することを見越して録音する場合には一切のエフェクトをかけ録りしないのが理想です。
インテリジェント・ノイズ・リダクションを使用することを見越さなくても、なるべくエフェクトをかけ録りしないほうがいい(マイクプリや、天井を叩く目的のコンプは問題ない)
圧縮時に出現するノイズ
きわめてまれに、圧縮前には存在しないノイズが圧縮後に出現する場合があります。特にゲーム業界。
ありうる原因としては、圧縮プログラムのバグや、妙なキャッシュ(そのノイズ箇所が何故か消してはならない情報としてキャッシュされることがまれにある)が残っていたり。あとは実際にはノイズとして鳴っていないのに、何度も聞いているせいで耳がどうかしちゃうこともあります。
程よいタイミングでリフレッシュするのも大事なことです。
尺詰めを回避する編集
なぜ尺詰めしないほうがいいかというと、歌でいうと、DAWのプロジェクトファイルなど当該ファイルを参照するシステムで制作を行なっている場合に、参照ファイルを同名のまま差し替える(チート)する際にほんのわずかでもそのファイルに尺の変更が起きていると、DAWでもともと仕込んだ処理の辻褄が合わなくなってしまう可能性があるから。
セリフだと尺詰めしてもわりと平気(影響範囲を考えた上で判断します)。
尺詰めしない方法においては比較的新しいバージョンのSound Forgeがナイスです。
ノイズ例05は、Sound Forge 10で’帯域を削るタイプ’の処置を施しているところ。
○のついた箇所がノイズで、そこを選択して前後にクロスフェードをかけています(Sound Forge 8だと選択範囲内のみ処置が施されず、処置部分の継ぎ目で新たにノイズが発生し堂々巡りになるので、それを避けるため、個人的に’外科手術’と称する手順で処置を行なっていました)。
尺が合わないコピペに関しても、クロスフェードを利用して処理すれば尺変更を回避可能です。
注意したいのはクロスフェードの曲線をS字にしているところ。よく、LinearとEqual Powerってのがありますが、音量や周波数(音程)って対数なのでLinearだとよろしくないわけです。
めったにないことですが、Linearでのクロスフェードしかなく、かつ継ぎ目が沈んで聞こえてしまう場合は、差し引きの値でボリュームオートメーションを書き込むことで目立たなくできます(ノイズ処理では必要になりませんが、クロスフェード処理を行う場合には大事な工程)。
※LinearとEqual Powerに関してはさほど突っ込んだ説明をしてはいないが。