Forever 89 “Visco”

Forever 89 “Visco”

昨晩、夜中につい「えっ?」と声を上げてしまったForever 89のVisco。
今朝になってデモ版を落として十分弱くらい動かしていたのですが、やはりすごい。
マニュアルをちらっとだけ読んで、ひとまず触ってみました。

Visco Manual

追記

今後とも仲良くしたいので、購入しました🥹。

謎めいた分解/合成指標

ドラムシンセはドラムシンセなのだけど、各ドラムサウンドはリアルタイムで高品質にレンダリングされます。モジュレーションによる変化も負荷なく、手持ちのオーディオファイルを放り込んだ場合でも瞬時に分析され、待ち時間なくヌルヌルと変化。
これまで色んなドラムシンセを見て質感や解像度が気に食わないだのエンベロープはそんな単純じゃないだのと文句を言ってた自分ですが、ここまで一足飛びに進化するもの!?という印象です。

リアリティにも色んな角度からの見方があると思うのですが、物理モデリングだと通常欠かせない「筐体の共鳴」をハナから捨て、”共鳴は結果的に起きてる現象”と割り切ることでリアリティを確保しているのかな…と思いました。知らんけど。

むろん音の種類に多少得意不得意があるとは思うのですが、アコースティック感のある音でもかなりの精度。
精度というと正しくないか。元素材をベクトルに分解したような印象で、SOUNDタブ上のXY軸およびZ軸(手前につまみ上げるようなイメージ)で調整していきます。むかし、Octave Engineだかでこんなグラフィックをいじった記憶があります。すげーと当時は思ってたのに、もう20年近く前らしい。

※Octave Engine自体は音と関係なく、物理エンジン(≠物理モデリング)です。

中央上部のフェーダー両端に様々なドラム音色のモデルが読み込まれるのですが、たとえば808のスネアとリアルなスネアの間っぽい音がすんなり作れます。
もちろん、この”間っぽい”というのも、このソフトウェアのパラメータとしての中間の値になるので、必ずしも僕らが思う中間値と印象が合致しない可能性があります。
月並みな言い方になりますが、今まで願っても叶わなかった音、たとえば「もっと柔らかなタムの音」を、EQだのリシンセシスだのと手を変え品を変えしなくても、漠然と方向性さえイメージすればマウスだけで調整できるようになるわけです。
Brostepのスネアとカバサの間っぽい音とか、ボーカルサンプル(読み込ませた場合)とカウベルの間っぽい音なんかも作れる上、それをヌルヌル変化させられます。
この過程は、かつてAbsynthで見たMutate、あるいは初期のMetasynthのconvolve(cross convolveのほうか?)、Google Magenta Studioを思わせます。

インタラクティブさ、柔軟さ、その他もろもろ

搭載のシーケンサーのサウンドのグネグネ感も驚異ですが、こんだけ即座に反映されるとなると、即興演奏との連動はもちろん、音楽環境以外からの入力をもとにサウンドを変化させることもおそらく可能で、前衛舞踏とのマッチングにも期待できそう。

追記

いや、これは言い過ぎた。厳しいかもしれない。
前に別の記事で書いた気がしますが、モジュレーションでは可能な先読みがリアルタイムじゃさすがに無理な気がします。

以前紹介したDrumnetやそれに類するAIベースのドラム音ジェネレータは、まあまあいい音を生成してましたが、あれはサンプルの長さやピッチの問題は現段階じゃ解決されていません。このソフトではその辺りが謎技術で解消されますね。

SOUNDの液状の物体は、すぐ左のドラッグ、アトラクト、消しゴムツールのアイコンをマウスで上下ドラッグして影響範囲をお好みで調整した上で動かすと楽しいです。個々のドラム音はModifyパラメータでダイナミックに変更、下部のマクロで全てのドラム音をまとめて変更できます。
現状では各ドラム音ともモノラルでのみですが、MIXタブで出力バスの設定を変更できるのでエフェクトで微調整するとよいかと想います。ステレオサンプルを放り込んだ場合もモノラルとして解析されます。内部でステレオのドラム音を生成/コントロールするのはまだ難しいかなとも思うのですが、Ableton Liveの純正シンセ風のステレオ化手法がいずれ搭載されるんじゃないかと。

闇雲でなく、目的地を想定した開発

聞くところによると、このブランドはAbletonとTeenage Engineeringのベテランが立ち上げたもので、その名称は80〜90年代の技術革新に肖っているとのこと。
AIに限らず、目的そっちのけで何か作ってみて世に問う式の技術(とりあえず手を動かせ的な?)が当たり前な昨今でしたが、このように目的地がある程度ハッキリしたモノ作りもやっぱり面白いなと。
とはいえ比較はしたものの、それぞれにメリット・デメリットがあるはずなんで、どちらが理想的などと拙速に判断するんではなく、相補的なスタンスだと考えるべきか。

定価が€139で、現在イントロ価格€99。