宣伝兼ねてですが、新作 “Quadrifoglio 3” 、一通りミックスが終わって、マスタリングそして入稿を残すのみ。
プレス会社とのやり取りがうまく行かず、予定してたホログラムスタイルのジャケは取りやめました。でもお蔭で入稿期限が1週間伸び、結果的には助かりました。
Electro Swingの手法を借りたロックやら当初方向性にはいろいろ計画があったのですが、出揃ってみるとアップテンポもありつつ全体的に地に足の付いた曲が多い気がします。
作っていく中で新しく試してみたことも多々あるのですが、そもそも実験を行うユニットではないので、実験結果は僕にしかわからんですね。
つい先日、札幌でiZotopeの製品セミナーがあり、何とか時間ができたので出席しました。
本作の仕上げがこの時期になることがわかってたので、セミナーで取り上げられる製品、機能説明や活用法は実は既にYouTubeの解説動画(日本語のものがないので英語になっちゃうけど)で大部分知ってたのですが、認識の補正と情報交換にはとても役立ちました。
説明とはかくあるべきって感じ。大人相手だと反応があるから説明しやすいって面ありますけどね。
さて、今日はこの機会に、仕上げに際して何をチェックするか記してみます。
しつこいですが、この手の話、本来は一流の方がお話したり綴ったものを参考にすべき。
追記:偶然ですが今日、Pro Audio Filesに「A Guide for Producers Preparing Files for Mix Engineers — Pro Audio Files」という記事が上がってますね。こちらはデータとしてどうなってないといけないかの話。
音量
- 音量差
- 歪み
曲を並べて曲ごとに音量の凸凹がないかチェック。バラバラの曲順でもチェックします。
歪んでないかも必ず確認。ミックス時点で歪んでるものはもうどうしようもないので、自分の曲なら直せばいいし、2ミックスの他人の曲なら諦める(か、対応策があるなら対応する)。
シングルやデジタルリリースのときは曲単体でチェック。
無圧縮データ、せめてFLACのデータのレファレンスは必ず用意。対象曲とジャンルの違うものは参考になりにくいので避け、また「いい曲」や「好きな曲」でなく「いいミックス」と言われるものをチョイス。
0dBノーマライズを避け、True Peak (ISP)も必ずチェック。
周波数分布
曲単体でいいミックスでも、並べるとエグさが出る場合があるので許せる範囲まで抑えていきます。よほどじゃなければミックスにまで戻ることはあまりなく、マスタリングで抑える程度。
でもどの曲も同じような響きになっちゃうのも面白くないので、自分が許せるかどうかで判断します。
Ozone9についてくる(だったかな)Tonal Balanceが、今回だいぶ役に立ちました。
2ミックスの他人の曲で帯域が削り落とされて寄越されたものは、その意図が読み取れるものは他の曲と比べて浮かないように多少調整加えるが、基本的には調整不能と考えておく。
DCオフセットもチェック。極端な検出値でない限りDAW等ソフトの誤差であることは念頭に置いておく。
パートのバランス、LRおよびMSバランス
こちらも、並べて聞いて気になるなら直します。
メインパートとオケ、メインパートと裏メロ/オブリとオケとのバランスが曲ごとに大きく違って聞こえる場合があります。原因は音量かもしれないしEQかもしれないしリバーブ等のエフェクトが妙な効果を発揮している可能性もあり、原因を突き止めて対処。曲順によって聞こえ方が変わる場合もあるので直し過ぎも禁物。
2ミックスの他人の曲であれば、MSモードにしてEQやコンプで調整できる場合があります。
DAWに持ち込んで曲構成ごとにオートメーション等で調整することもあります。
質感
- 粒度
- 乾湿
- 軽重
- 遠近
色々ありそうだけど重視してるのはこの4点。単体で遠近感がバッチリでも、並びで聞くと不自然に聞こえるときがあります。意図的でないならミックスまたはマスタリングで可能な範囲で調整します。
他人の曲はどうしようもないので、対応策がなければ諦めます。
他の曲と比べて奥行きがあり過ぎるに感じたなら、リバーブセンドやリバーブのチョイスはもちろんEQの低〜中域とコンプとのバランスも調整しますし、曲の重心が偏って聞こえたなら音量以外にEQや(ディレイなど)センドエフェクトのタイミングも確認します。
こうした多くのチェックポイントは、ルールや慣習として従うべきものと自己判断でいいものとに分けられます。その天秤は、商品と考えるか、作品と考えるかで揺れると考えています。
ノイズ
- 増幅されたノイズ
- 錯覚ノイズ
ミックス前、ミックス中にも各素材必ずチェックしますが、ミックス/マスタリング後にノイズが目立つようになったり、ノイズじゃないのにノイズに聞こえるものが現れたりします。
味わいとして残していたはずのノイズ(たとえば吸気音)がミックス後に耳障りになることももちろんあります。聞き手に何度も聞いてもらうことを望むのなら、気になる瑕疵を残しておいていいはずはありません。
原因を特定し、ノイズ除去したりEQを調整したり、場合によっては音色を変えるなど、出来ることは全てやります。
曲間の長さ、データとしての曲の長さ
- アレンジの影響性
- データの安全性
いわゆるギャップは一呼吸するくらいに設定(Studio Oneのデフォルトは2秒)。フェードイン、フェードアウトする曲(SE始まり、SE終わりの曲を含む)は曲間が他と違って聞こえますし、テンポや雰囲気、ジャンルの大きく異なる曲同士のギャップは少し配慮する必要があります。
シングル曲の場合、曲間を気にする必要はほぼありませんが、それでも曲頭からいきなりデータが始まっていないか、曲終わりが短すぎないか、いわゆるマージンは要チェック。また曲頭や曲終わりがきちんと無音になっているかどうかもチェック。
あとは最終的に全曲を聞き終えた読後感みたいなものも要確認。終わった感と余韻はわりと大事。