MAAT “FiDef JENtwo”

測定系のシビアなツールを中心にリリースする MAAT Digital から、 配信の際などに喪失する成分を補間してクリアなサウンドを実現するとされる FiDef JENtwo がリリースされています。価格は$99。

FiDef (幾つかの動画を見たところ「ファイデフ」と発音されている)は、2017年にAl Schmittをはじめとした一線級のエンジニアによって絶賛された技術で、ゲーム音響や音楽/音声配信における臨場感をエンハンスさせるものと説明されています。

実際に何をどう処理しているのか。
Gearspace.comでの言葉を借りますが、上記サイトには「何であるかが記されていません」。
FiDef JENtwoのマニュアルにも「何ではない」が記されている程度って感じです。
出せる情報と出せない情報とがあるので仕方がないとは思うのですが、Gearspace.comでは当時「試してみたいが、試すにも金を取るってやり方が気に食わない」と投稿があり、それに同調する空気を感じますね。あまり好感触ではないようです。TDRの開発の方も所感を投稿してるのかな(本物?)。

動画でFiDefについて触れたFriedemann Tischmeyer(だと思われる;この人、別のMAATのソフトで名前を見た気がするんだけど、気のせいかもしれない)氏もGearspaceに、当時のバージョンにおいてはフェードアウトや静かなパートでアーティファクトが発生することがあって、それが解決されないとなあ、と所感を寄せています。

これらを調べる前に、うちでこのプラグインのデモ版を突っ込んで音を鳴らしてみたのですが、はっきり言って違いがわかりませんでした。おや?と(実際は、雑にしかチェックしなかったせい)。
またプラグイン挿入後に検証目的でiZotope Insight 2を差すとDAWごと落ちました。おやおや? 検証されるのが嫌なのかな?と。

差分だけ見てみる
差分だけ見てみる

よけい怪しく感じてきたりもしましたが、先にInsightを差してからFiDef JENtwoをインサートすると安定するようです(環境によるかも)。
Sootheがそうであったように、容易に感受できないことがむしろ機能の核心であるようです。
動作としてはFiDef JENtwoの画面に見える幾つかのアルゴリズム(というより設定プリセットだと思う)に対応したノイズがソースオーディオに寄り添うように鳴るというものに見えます。したがって、今は亡きRoth-AIRと処理内容的には大きく変わらないように思いました。
音声心理学に基づき、特許を取得しているらしいのと、ある程度オーディオの圧縮方式に応じると思われるのとで、コンセプトに違いがあるようですけど。
自分に今わかるのはここまでですね。

そうなると、マニュアルや公式サイトのFAQや錚々たる面々のテスティモニアルでの弁、あるいはゲーム音声でのリアリティエンハンスメント目的、とされる意味合いがわかる気がしますね。

わかってる人相手の説明は簡単で、わかってない人相手の説明は神秘的になりがちとされるのは、こういう部分なんかなあと思ったり。
ともあれ、あって困るものではないけれども、ほんとにギリギリの線でリアリティの喪失を最小限に抑えたいって目的以外ではあまり活用の場がないような気がします。ただ、経験談としての話になりますが、一例として示されている「トラック内のパートの分離をよくする」には、組み方次第で一役買うと思います。


おお、一つ書き忘れてました。マニュアルの説明では、現バージョンでのFiDef JENtwoは万能じゃないけど、次期バージョンでより広い活用を期したアップデートを行うつもりと解釈できます。
いずれFiDefが浸透したときに備えて、現バージョンで勘所を掴んどいて次期バージョンでライバルを出し抜く的な青写真を描けないわけではありません。


「理屈ではありえないことが起きる」的な説明をし、機密なので明かせない(だけど金は取る)やり方は、率直に言っていわゆるニセ科学やオカルトに近く、胡散臭さを感じざるを得ないとこがあります。自分も正直、信用してた人間が踏み込んじゃいけない領域に踏み込んでしまった印象を持っちゃいました。
が、マニュアル内に記されているように、ぼんやりと聞いていることで促される知覚体験(オカルトではなく;錯覚利用がイメージ的には近い)があるってのはわからないでもなく、今のところ五分五分程度で認識しています。論文等へのリンクがない以上、現段階ではもう少し客観的な情報が揃わないとおいそれと手を出せません。