Xfer Records “Serum 2”

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Xfer Records “Serum 2”

実はこっそり早めに情報をいただいていたXfer RecordsのSerum 2。
大きめな2つのニュースとお伝えしていたうちの1つめですね。
昨年の海外の掲示板を読むと「1で充分だ。2なんぞ要らん」って雰囲気ではありました。が、まあ個人的にはそんな人も電撃食らうようなアップデートだと感じています。

なお、サイトにSign Inできない場合が稀にありますので、何度か試してみるといいです。Tipに関してはお好きなように。No Tipでも先に進めます。自分は最低額ですがTipを送らせてもらいました。

Sonicwireで購入するなら↓(マニュアルは3/28に翻訳完了したので4月第1週には翻訳版を入手できるはずです)。

SERUMの詳細情報ページ
XFER RECORDS社製 ソフト音源 「SERUM」の製品詳細情報ページです。

おもだったアップデート内容と所感

ひとまず重要そうなポイント。まだマニュアルを熟読してないので、これらの挙動が設定で変更できるのかは不明。

取り回し面

  • アップデートに際し、既存のプラグインファイルが上書きされることはない
  • DAWのプラグインメニューでは、SerumとSerum 2は別々に表示。
  • プリセット、ウェーブテーブル等は、SerumとSerum 2との間で共有されないが、S1 Presetとして表示される(Serum 2のみを購入した場合の動作は不明)。
  • 既存の楽曲プロジェクトファイルでトラックに使用したSerumがSerum 2に置き換わることはない。
  • Serumの設定コピーをSerum 2に設定ペーストすることはできませんが、SerumのプリセットをSerum 2で読み込むことは可能(逆は現状不可)。

細かなアップデート内容が多々ありますが、目についた部分を箇条書きにすると、

  • 1の機能をしっかり押さえ、ユーザーフレンドリーさを重視しつつ機能追加が行われている
    • まるっきり別物になるなどということはなく、かといって見た目が何も変わらないなどということもない
    • ユーザーが多用してきた機能で、右クリックを必要としてきたものが、随所スイッチに変更されており、操作性が向上している
    • とはいえ煩雑になったとも言えるので、ふだん自分がよく使う機能だけ見るか、前バージョンとうまく使い分けるかしたほうがいい。
      • この場合、途中までSerum 2で作ってやっぱり前バージョンがいいって場面が恐らくある。可能ならそれに対応する機能(バックコンバートとでもいうんだろうか)を持ってくれると嬉しいかも
  • 波形表示部の解像度が倍増
  • キースプリット搭載 → OSC Mapping

オシレータ関連

  • メインオシレータ
    • オシレータがもう1つ追加
    • Wavetable以外に、シングルサンプル(ループ可)、マルチサンプル、グラニュラー、スペクトラルのシンセエンジン追加
      • NoiseエンジンをPCM再生に用いるようなプリセットがこれまであったが、OSC側でそれが可能になった
      • シングルサンプルのメニューには、サンプラーの歴史を辿るような機能が集約されており、特にルートノート周り、非破壊のクロスフェード、ループモードなど、従来のサンプラーでは何かしら欠けがちな機能のすべてを網羅しているように見える
        • SFZの読み込みに対応している(現状、SoundFontを作成可能、または正しく動作するソフトはかなり限られている)
        • とはいえアーティキュレーション操作などに特化した近代型サンプラーとは路線が異なる
      • AlchemyやPigmentsのような方向性
      • ただ、Serumにそうしたシンセエンジンを求める声は強くなかったように思える
        • これから登場するプリセット(デフォ含む)で有効活用された例が見つかれば、見方が変わるかも
        • SerumのらしさはCompressor(OTT)にあり、OTTはスピンアウトしてこれまでも他のサンプラーやグラニュラーシンセを通すことができた。Serum 2で内部にそれら新しいオシレーターを搭載したからといって新しい発見があるのかどうか
    • Warpが幾つか追加
      • メニューとして整理され、2つ同時に使えるようになったっぽい
      • Spectralを除くほぼすべてのオシレータ方式でWarpを使用可能(ただし全てのWarpモードを使用できるわけではない)
    • PNGファイルの読み込みは健在
  • サブオシレーターにピッチと開始位相、パンが搭載(以前はOCTのみ)
  • ノイズ
    • ノイズジェネレータ(サンプルでなく)追加
    • ノイズのピッチトラッキングは廃止になってるっぽい
    • おそらく前バージョンのSerumでピッチトラッキングを使った音色は、OSC Cに差し替えられるのではないかと推測
    • ノイズのセンターピッチは不明
      • 自動的にA3に設定されるとのこと

追記

マニュアルのノイズオシレーターの項に面白いことが書かれていた。

Noise oscillator playback uses high-quality real time interpolation. This is because with noise sounds, the high-frequencies are important. Serum strives to offer the best quality whenever possible, even at the expense of additional CPU usage (although this feature is heavily optimized with both SSE2 and pre-calculations when a file loads).
Since high-quality playback does require more CPU processing, it is worth noting that mono sounds do use slightly less CPU resources (one channel instead of two can add up with chords). The main consideration here is that if you have a mono noise source, don’t export it as a stereo file for Serum since you will be wasting both disk space and CPU resources (on playback).

つまり、この日記でたまに書いていることとカブるのだけど、ノイズオシレータを使う際の高い周波数帯の処理にはちょっと仕込みを入れていて、そのぶん少し負荷のかかる仕様になっているよと。
これにより、オリジナルのノイズがモノラルであるなら、変にステレオフォーマットにして読み込まずにモノラルフォーマットのまま読み込んだほうが負荷を抑制できるよ、とのこと。
モノラル、ステレオの違いがわからない人は(そこまで大問題でもないので)気にしなくていいです。

Wavetableの基礎知識

従来のSerumの方式。1024サンプル長の波形を256インデックス(サブテーブル)個登録し、いわば1024サンプルの固定ループ長のスタートポイントとエンドポイントを動かすことで波形の変化を作る。それと同時に波形に形状を変化させるルール(WARP; PDのようなもの)を指定することでバリエーションを作る(ウェーブテーブルシンセの個性はもっぱらここで決まる)。サブテーブルの数が256個以下の場合、サブテーブル間を補間してスムーズな波形変化を実現可能。
WARPを使用した場合、DCの比率が偏りがちなので、UtilityのHPを活用するといいと思う。

Sampleの基礎知識

単一のサンプルをMIDIノートに合わせて変調させる、古典的なサンプラー。ループ設定可能。スライスによるキーマッピングが可能。
WARPを使用できるがWavetableのそれとは若干内容が異なる。またその効果はモニターできない。

Multi Sampleの基礎知識

キースプリットおよびベロシティスプリットにより多数のSampleをいちどにロードできるようにしたもの。sfz対応。個々のサンプルのエディットは不可? サンプルの割当を変更させるTimbreが使用可能。

WARPを使用できるがWavetableのそれとは若干内容が異なる。またその効果はモニターできない。

Granularの基礎知識

波形を細分化してつなげて(重ねて)鳴らすもの。長さや発生数、ピッチ、方向をランダム化させて厚みのある音にできるが、発音数が膨大に膨れ上がるため、適正値を探る必要がある(LENGTHやWindow形状のSkew値を活用すると効果的)。

発生ペースをテンポ同期できるものはSerum 2で初めて見たかもしれない。活用の余地あり。

Sampleで選択中のものをGranularに直接変更可能。

WARPを使用できるがWavetableのそれとは若干内容が異なる。またその効果はモニターできない。

Spectralの基礎知識

波形をスペクトルに分解し、周波数やスタート/エンドポイント、CUT設定でフィルタリングして鳴らすもの。まれにFWD LOOPとREV LOOPの設定が逆になるときあり。
WARPを使用できるがWavetableのそれとは若干内容が異なり、Spectral用のWARPメニューを使用可能(それ以外の効果はモニターできない)。

フィルタ、エンベロープ、シグナルパス関連

  • フィルタがもう1系統追加
    • いずれか一方でなく、BUSのように使う(MIXERでシリアル接続可能)
  • エンベロープとLFO
    • エンベロープがテンポ同期可能に
    • LFOの画面に凄まじい形状のものが見えるスクショがあるが、これは使ってみないとわからない。
      • GlobalのところにあったChaos(Sample & Hold)が1系統に減った代わり、LorenzとRossierが採用
  • マクロ数が倍に
  • Mixerを通じて、3オシレーター、2フィルター、2バス、メイン出力、ダイレクトのバランス調整が可能に
    • これまではMixパラメータのラベルをクリックしてレベルを調整していたが、MixとLevelは分離されたようだ

FX関連

  • FX部
    • FXに、EQとは別にローカット可能なUtilityが追加
    • FXに新しくBode、Convolutionの文字が見える
      • Bodeはいわゆるフリーケンシーシフト
      • Convolutionは今までのReverbと別なのかどうか不明(たぶん別)
        • 判明:別でした
        • 手持ちのIRデータをロード可能
        • Reverbはアルゴリズムが2→5に
      • このほかバンドスプリットの機能を含め、全部で13のFXとのこと
      • FXチェーンプリセット追加?
    • 2系統のFXバスセンドが可能
      • 各バスに別々のエフェクトチェーンを設定可
  • MIDIクリップ搭載(12個まで登録可能、レコーディング可能、オートメーションの記録が可能)
  • アルペジエイター搭載
    • MIDIクリップ含め、これまでLFOで強引にフレーズ化されていたためにアタック感が不均一になる、という問題が解消

プリセットの作成と配布/販売に関するご注意

Serum 2ではシングルサンプルやマルチサンプルに使用したサンプルをどうやらプリセットファイル内にembed(埋め込み)できる仕組みになり、1個のプリセットファイルのみで友人のSerum 2でも同じサウンドを簡単に再現できるようになっています。
これは非常に便利な仕組みですが、自作のプリセットファイル内に市販のサンプルを使用して配布、販売する行為は、ほとんどの場合そのサンプルをもともと販売していたメーカーの権利を侵害する行為であり、利用許諾契約により禁止されています。
利用許諾契約により禁止されているということは、それがバレた場合にその直後からそのユーザーがそのサンプルを使用する権利が剥奪される(動作時に認証が必要なソフトであれば認証が通らなくなる)か、最悪の場合は賠償請求される可能性がある、ということです。

手が入らなかった部分

以下の点には手が入っていないように見えます(とはいえ、いただいてる資料ではプレファレンス部分への言及がなく、設定次第で振る舞いが変わる可能性あり)。これらに手が入ってしまうと、前バージョンのサウンドが使えなくなってしまいますからね。

  • スタンドアローン化
  • Matrixで極性を変更した際の範囲の変化
  • Wavetableのサンプル数(解像度)、インデックス数
  • うねり系エフェクトにおける負値のフィードバック

現状不明な部分と所感

以下については、触れてみないとわからない

  • エフェクトの追加(上に記したもの以外は不明)13個と判明
  • フィルタの追加新たにS2 Filtersが追加
    • サイケトランス作成に欠かせないDiffusorが追加
  • SerumFXとの関連性
    • これに関しては、特にLogicでエフェクトプラグインがMIDI情報を受け取らないという致命的に面倒な仕様を解決する手法が備わると大きい
    • 少なくともSerum 2のままサイドチェーン機能を搭載したMIDI制御エフェクトとしてLogicにロードされれば多少ラクになるのだろうけど
    • 現段階で、Serum 2自体のサイドチェーンは廃止されたように見える

全体に関する所感

何か既存の別のソフトシンセに寄せるようなアップデートでないことは最大限に評価できます。しかも極端に重たくなっていない。
DAWを通じてオートメーションするしかなく、それゆえに打ち込みが面倒になっていた問題も一気に解消されたといってよいでしょう。

大きく機能が増強されたことで、そのぶん音色の作り込みに手間暇がかかるようになったわけで、アップデート直後の現段階では安定性が気がかりです。
往々にしてありがちなトラブルとしては、いったん閉じて開いたあとに、保存したものが完全に再現されないなんてのもあります。
少なくとも、Serum 2を使用し、音色を自作したり既存音色を編集して使う場合には当面、頻繁にDAWのプロジェクトを保存するよう注意したほうがいいかと思います。不安定であると確定的に言っているのではなく、これは一般論です。


なお、現在マニュアルの翻訳を始めたばかり、まあまあなページ数あるので、2週間程度待っててくださいな。いま、ほかにも業務が詰まってるので…。

その他参考

完成度の高い機能が追加されたことに伴って、もしサンプラーやグラニュラー等に関する説明が必要でしたら、過去記事を参照してみてください。長い文章が苦手ならAIに要約してもらうのもよいかと。

あとは、もはや不要かと思いますが、前バージョンの構造を振り返るなどしてみてもいいのかも。