EULA(使用許諾契約書)には何が書かれているのか

UJAMの場合のEULA例
UJAMの場合のEULA例

最近、仕事のからみで音楽ソフトのエンドユーザー使用許諾契約書(以下「EULA」)に目を通しています。小難しいから読まないって人も多いんじゃないかってことで、EULAに何が書かれてるか、ざっとまとめておこうと思います。

自分が違反してないか不安な人はざっと通読いただいて、可能であれば自分の手元にある契約書の内容もチェックしてみてください。

不同意なら使うべからず

ソフトを購入、または使用開始した瞬間に、EULA内すべての条文に同意したことになります。
使用にあたって内容を守れないならインストールあるいは製品登録を中止して製品を捨てろ、とも書いてあります。
返品、返金が可能かは支払い形式その他の事情によって異なるので、デベロッパーまたはサプライヤーに要相談。ネット時代は基本返品不可で、だからうちのレビュー記事でもたびたび「デモを先に試せ」と書いてます。

購入ではなく借りる

製品を買い受けるのでなく使用する権利(ライセンス)に対してユーザーが料金を払っている、これが原則。
製品のコピーを受け取ったからといって好きにしていいわけではなく、製品自体の権利はデベロッパーが保有していて、下請けなど第三者への貸与等を許可なく行えば違反。また共用PCにインストールすることを禁止するものも多い。

EULAが優先

口頭や書面、サポートとのやり取りがどうあれ、またやり取りの相手が偉かろうが、各デベロッパーのWebサイト上または製品に同梱されるEULAの内容が優先されます。
仮に最新のEULAが製品に同梱されていず、使用者がそれを目にしたことがなくても、最新のEULAが優先です(この点に同意しろと多くのEULAに記されている)。
EULAの訳文が間違ってる場合、原文が優先。故意に内容を歪曲した訳文になっていないかは判断しきれませんが、気になるなら原文読めって話になります。
EULAより優先されるものは各国各地域の法律のみと考えてOKです。そうでない場合は条文中に記されています。原文が存在せず国外の利用者のみ制限を設ける(たとえば共産主義国)ものもあり、市民としては、そうした法域の製品にある程度注意したほうがいいかもしれません(たとえば利用者のPC内の情報を収集することを認めるよう条文に記されたものが多いですが、ホントにこれOKしてもいいかな?ってケースもあるでしょう)。いよいよ微妙な場合、専門家や代理店に聞いてみるのがベストかと思います。

ユーザーの自己責任であり開発者販売者は問責されない

非常に雑にいうと、基本、開発者/販売者はほぼ一切責任を負いません。ソフトを使ってPCがぶっ壊れようが、開発者が夜逃げして開発を中止しようが、ユーザーが変な曲を作って訴えられようが、わしら知らんがな、ってのがEULAで記されている大事な柱の一つ。
一般に「自己責任」と言われるものですが、この言葉自体はあらゆる事態を一言にまとめ過ぎちゃってます。つまり「自己責任」をきちんと文章化するとこれくらいの分量になると言えます。

開発者/販売者が補償を行う場合もありますが、十中八九、補償額は販売価格を上回りません。あと余談的ではありますが、EULAの条文内に一部瑕疵があったとしてもEULA全体が無効とはならない場合がほとんどです(分離性)。

近年は、本来分解できない2mixからステム生成できるようになるなど、著作権侵害を幇助すると解釈されかねない先進的技術について、利用者の責任範囲を的確にするために長文化してしまったEULAも見かけられます。すげえ技術こそ注意が必要と考えたほうがいいでしょう。

単品で鳴らすの禁止

素材をそのまま「抜き取れる形で使う」のが禁止。たとえばライブラリーに収録されたスネア一発だけのフィルを曲のド頭で鳴らしたり、ギターのループを曲中でソロで鳴らしたりするのが危うくなります。
正直、音ネタをソロ状態でそのまま使っているのをちょくちょく見かけますし、果ては製品に収録されたデモ曲をそのまま使っているものも聞いたことがあります。後者に関しては十中八九アウト。
ただ、必ずしも禁止でないライブラリーもありますし、逆に、加工してもダメなライブラリーがあります。何にせよ、使用した時点でEULAに同意したことになっている以上、知らずに使うと一切申し開きできないので、ここは要注意。

使用した中で対外的に起きた問題は自己責任

何らかの音源を使ったユーザーがたとえば仮に侮辱的な作品を作った場合に、デベロッパーが罪を問われるのはお門違いという話。当たり前じゃんと思うけど、そう思わない人もそれなりにいるってことでしょう。
また、デベロッパーのミスであろうとなかろうと、起きた問題の損害(無茶な使用方法によるPCの故障、ライセンスの盗難、訴訟面も含むすべて)をユーザーが負担するのが一般的。

ライセンス譲渡の可不可はメーカーごとに異なる

多く見かけるのは2017年以降のもので、多くのデベロッパーの使用許諾にライセンス譲渡に関する追記がなされたと見えます。
リアルな個人間での製品(ライセンス)の譲り渡しにせよ、近年注目されているWeb上での不特定相手への譲り渡しにせよ、それを許すか許さないかはデベロッパーが持っているライセンス管理の仕組み次第。

すべての製品においてこれがEULAに記されているわけではなく、記されていないものであれば基本的に不可と考えたほうがいい。
なお当然ながら、譲渡したものを譲渡した側の人が使っちゃダメ。あと、今のとこ検知されにくいとは思いますが、別人が同じアカウントで使用してはダメ(この辺りはメーカーによって多少ばらつきがあり、滅多にないことだけど、予想に反してOKだったりしないか目を通しとくのもいいかもしんない)。

デベロッパーは必ずしも責任を負わない

製品や付随する資料、あるいはWebページからのリンク先の情報に未完成、不十分、瑕疵があったとしてもデベロッパーは責任を負いません。サプライヤーも同様。
また、事前の告知なく機能や契約内容に変更が生じることにユーザーは同意しなくてはいけません。
ただし使用許諾の条件等に変更があった場合には、アカウント登録を行なっているユーザー相手に告知されるときがあります(だけど必ずではない、そこは許してね、という話)。

NFRを製作に使うことは禁止

近年、NFR(not for resale)を不特定相手に渡すことがわりとふつうに行われていますが、本来レビューや評価が目的で対象者に貸与されるものであり、ほとんどのEULA内において、制作に用いることは禁止されています
ただ、使用された素材がNFRによるものかは作品を聞いて判断しにくいですし、売上に貢献してくれるかもしれない淡い期待をデベロッパーが持っていたりもするので、咎められにくいとは思います。
しかしながら、仮に支持者が多かろうが宣伝力が多かろうが著名人であろうが、そもそもダメだとされ同意までした行為をしてしまってる時点でユーザー側に弁解の余地はありません。
もう1つ。どこまでを制作とみなすかも提供者側の裁量によります。YouTubeで紹介するためにNFRを使用してオリジナルのデモトラックを作成した場合、(可能性は限りなく低いですが)仮にソフト提供側がダメだといえば、いかなる主張が自分にあろうとも従うのがスジかと思います。


他にも製品それぞれに固有の条件が記載されていたり、逆に「こんだけしか書いてないんか」ってものや、場合によっては存在しないケースもあります。
テキストやPDFドキュメントとして配布物に同梱されている場合もあれば、最新の契約書と連結するべくWebページへのリンクになっている場合もありますし、インストールプロセスの冒頭で表示がなされる(Macだとこの契約書はPDFにエクスポートできる)場合もあります。
国内の販売店で購入した場合には日本語訳されたドキュメントが付属するのが一般的ですが、その日本語訳にも瑕疵がないとは限らず、情報が古い可能性もあり、原則、原文の内容が優先されます。


今のところ、料金を支払った(一般に「購入」と表現する)製品をユーザーがどう使用したか、デベロッパーが突き止められはしませんが、遠くない未来に、許諾に反した使用状態が何らかの形で検出可能になるんじゃないかなと個人的には思います(その機能をデベロッパーが採用するかは別として)。なお、電子透かしが入れてある製品もあります。
そうなってから日常的な気ままな使い方を変えるのは難しいので、今の使い方が相応しいかどうか、製品利用においてどう気を配るか、検討しとくといいのかなと思います。


ちなみに冒頭のUJAMの使用許諾契約書のスクショを載せました。比較的新しいデベロッパーであるため、Webページの構造がかなりしっかりして(製品もしっかりしています;ヨイショ)いて、簡単に情報をブッコ抜けなくなってるのが面白い。