Voxengo “PHA-979” の使用場面

シリアスなツールを作り続けてくれる老舗、Voxengoの PHA-979 がPlugin Boutiqueでセール中(でした)。価格はスクショに見えるので割愛。
ふだんミックスをお仕事でやっておられる方であれば説明不要ですが、あと一歩がうまくいかないってトラックメーカーの方はPHA-979に救いを求める手もありなんだろうなと思ってます。

キックもベースも最高にいい音で出ているのに両方合わせるとイマイチ、なんてケースがあります。サイドチェーンも有効ですが、どうもそういう問題じゃなさそうだってとき、位相の干渉を疑ってみるわけです。
音響面の話だと、裏返しの波形を重ねると音が消えんじゃん、ってのが位相の話の入り口ですかね。音楽の中の音なんて色んなものが混ざり合ってるもんですが、その要素の中に裏返し同士になるものが偶然いればそいつらだけ消える、これが面倒な問題。気にならない場合がほとんどだけど、肝心なとこにそれが出てくると困るんですよね。

たとえば…

(1)ノコギリ波にこもり気味のフィルターを速い減衰で設定
(1)ノコギリ波にこもり気味のフィルターを速い減衰で設定
(2)ベースを逆相にした場合
(2)ベースを逆相にした場合
(3)ベースの位相を-45°に設定した場合
(3)ベースの位相を-45°に設定した場合
(4)ベースの位相を-34°に設定し、-6.78msのディレイを施した場合
(4)ベースの位相を-34°に設定し、-6.78msのディレイを施した場合

時間ないので簡単に作れる音で試した例ですが、ノコギリ波にフィルターを早い減衰で設定してみて、キックと一緒に鳴らしてみたフレーズ、それに対してPHA-979のほうでアレコレ小細工をしてみると、わずかながら響き方や腰、キレに影響が出てるのがわかるかと思います。きちんと低音が出るヘッドフォンで聞いたほうがいいかな。あとそれぞれベースのノートの出だしの音の形でなく、サスティン部分とキックとの相性に耳を傾けるといいかも。響きが変わったり、グルーブが変わっちゃってます(マスタリングエフェクトをかませてるので尚更)。

「腰やキレに影響が出る」ってことは最終的に曲全体のビートやノリを左右するのです。電子音楽の場合は顕著に。で、理想的なグルーブや響きを追求する人はこの問題から逃げらんない。
ベースの音がもっとグロウル気味なものになってくると、ローが削れちゃもったいないし、いわゆるアーバンな曲でローがしっかり出てくれないと歌もダサく聞こえちゃったりする(ダサく感じるかどうかは聞き手によるけど)。なので、そうした場合の回避策として、シンセで位相を微調整できるものならそれで行い、それが不可能なシンセを使っていたりオーディオミックスしないといけない場合にはPHA-979か、あるいは極めて小さい値でトラックディレイを使って整える、これが奥の手となります。奥の手とは言いますが、これに限らず、みんなあの手この手で理想の音の実現を図るのです。

余談。

トランスのベースだと、尖り気味な音の場合VitalでいうPhase Disperseを使ったりする。
トランスのベースだと、尖り気味な音の場合VitalでいうPhase Disperseを使ったりする。
倍音の位相を変化させたノコギリ波。
倍音の位相を変化させたノコギリ波。

倍音の位相をいじるだけでも波形は変わりますし、音色も絶妙に変化します。
上のスクショはVitalだとPhase Disperse、Tone2製品だとLaserってエフェクトをかけることで実現できる、ノコギリ波に対する各倍音の位相を(あるルールに従って)変えたもの。ノッチフィルタをかけると似た感じにはなります。これもトランスでよく聞かれるピリピリ言うベース音色の一つ。音色自体シビれるってのもありますが、比較的他の音からの干渉を受けても音色が崩れにくくなるのも好まれる理由の一つじゃないかなと感じています。