Vocoder 考 2017

Ableton LiveのVocoder(Unvoicedが摩擦音の帯域を拾うパラメーター)
Ableton LiveのVocoder(Unvoicedが摩擦音の帯域を拾うパラメーター)

摩擦音を抽出反映して歌詞を聞き取りやすくする機能を備えたものが多いVocoderに対してDeEsserをあてがうのは本末転倒ではないかと思いそうだけど、そういうことじゃなくて。
ここでいうDeEsserはDynamic EQの代用品。Dynamic EQを持っていなければDeEsserでいいじゃん、って話。

あと今どきVocoder?って人も多そうだけど、この5,6年くらい洋楽で使われてるのをちょくちょく見かけるのですよ(Anderson .Paak & The Free Nationals: NPR Music Tiny Desk Concert – YouTubethe Robert Glasper Experiment – “Cherish the Day” – Live in Chicago – 3/10/2012. – YouTubeSnarky Puppy feat. Jacob Collier & Big Ed Lee – “Don’t You Know” (Family Dinner Volume Two) – YouTube)。
特にライブで、そして妙にNovationのキーボードが好都合っぽい(たまたまか)。
邦楽では、演奏者にもスポットがあたるネオ・ソウル系があまり好まれないせいもあってほぼ見かけませんけどね。

DeEsserをDynamic EQの、Vocoderをダブラーの代用として

うちでは歌のダブリングの代りにVocoderをたまに使います。
レコーディング済みのボーカルトラックをVocoderの入力に使い、メロディライン(必要ならハモりも)をサイドチェーンに突っ込むと、本来なら数テイク分のコンピング、ピッチ補正やノイズ除去に費やしていた時間が省略できるので。
ある程度キャリア信号を作り込む必要はあるが、ダブリングに近い効果は得られます。

以前もVocoderについては2度ほど日記を書いていて、使う際の大きな悩みのタネが1つありました。
たいして聞こえないのに歪みやすい
主旋律成分は弱めに出す設計だといいのにね、とも書きました。
その後すごい勢いでDynamic EQという汎用性の高いものが浸透してきて(参考:Sonnox Oxford Dynamic EQ)、今はVocoderに限らず心強い味方となっています。

Screenshot of www.pluginboutique.com

Sonnox “Oxford Dynamic EQ”(Plugin Boutique)

うちの場合のそもそものVocoder設定は、入力する歌の抑揚が大きいときにはVocoderへの入力値が大きく変動してエフェクトとしてあまりよろしくないので、先にコンプをかけ、Vocoder内部で高い周波数のほうにチルトさせた(傾斜を与えた)EQをかけ、マルチコンプで低域を抑え…というふうに処理します。歌の抑揚がさほど大きくないときでもだいたい同じ。
ただ、クッキリ聞こえてほしい帯域を持ち上げると結局入力される歌の同帯域の成分も持ち上がるため、帯域内で大渋滞が起きてしまいます(愚直な処理をするLogicでミックスしようとすると、Vocoderのトラックをオンにした瞬間に全体がサチり出すのでどうしたもんかと)。
DeEsserを摩擦音でなくその帯域に合わせて反応するように設定しておき、渋滞を避けられるようになるわけですね。

コンプの弊害は回避したい

摩擦音の帯域として6kHzより上の帯域に反応するようにDeEsserを設定するのだけど、今回のVocoderに対して設定するなら1〜2kHzと、3〜4kHz辺りを対象にするといい感じ。

またCompressorは「音量を抑える」…という言い方をよくするけど、デジタルだと特に、設定値によっては文字通り「圧縮」してしまう。つまり聞こえ方としては変化がないのにメーターが振れにくくなります。
クリップを防ぐ働きとしては都合いいのですが、オーディオデータとしては効率のよい状態といえないですね。
(処理としては重くなるけど)シンプルにフェーダーを下げるEQをしかもダイナミックに使うほうが音の潰れが小さくて済みます。

Logic Pro X : DeEsser
Logic Pro X : DeEsser
iZotope : DynamicEQ
iZotope : DynamicEQ
oeksound : Soothe
oeksound : Soothe
UAD bx_digital V3
UAD bx_digital V3

DeEsserを摩擦音以外に使うのは珍しい話でもなくて、もちろんそのDeEsserの設計にもよりますが、キックの演奏ムラを軽減したり、ライブでマイクのフィードバック(ハウリング)防止に使う人もいます(単純にEQで処理しちゃうと声質が犠牲になってしまうので賢明だと思った)。
要するにDynamic EQといわれるもので、一般的なDeEsserと同様に単一の帯域に対して機能するものもありますし、iZotope Dynamic EQやoeksound Sootheのように幾つかの帯域に対して機能するものもあります。
そこそこ負荷がかかるので何でもかんでもインサートさせるわけにはいきませんが効果は大きい。

Vocoder自体に標準装備されたらいいなと思う。
ついでにサイドチェーン的に機能するものとしてはSurfer EQも活用に期待できるかも。