Strezov Sampling “String Contours”
ご存知ブルガリアのサンプリングライブラリーデベロッパー、Strezov Sampling。新作String Contoursは、他社と少し違った角度からオーケストレーションの省力化を提案する製品のようです。
NFRをいただいてるわけじゃないので、解説文と説明動画を踏まえての紹介となります。ご了承を。
機能
要するにフレーズサンプリングの一種といえますが、70, 100, 130の3つのテンポで抑揚付きの一定音程の長音を収録しています。
おそらく、アーティファクトとは無縁と思われます(これについては後で書きます)。
基本的に1小節または2小節の一定音程のクレッシェンドと、同じく1小節または2小節のデクレッシェンドの連続を収録しており、EDMや効果音でいくつか見られるライズ&ヒット系ライブラリーと少し似た仕組みになっています。仕組みとしては非常にシンプル。
これまでの一般的な手法であるMIDI CC(海外のマニュアル等では「コンティニュアスコントローラ」と記されることもあるが、MIDI仕様としては「コントロールチェンジ」が正解らしい)ではリアルな抑揚表現にいま一歩及ばない場面は多々あり、じゃあCCに頼るのをやめて、抑揚表現ごとキャプチャしちゃおうぜ、ってのが本製品の原理です。
神経質な人でもなきゃ抑揚のリアリティなんぞ気にせんだろという思いもありはするのですが、たとえばクレシェンドからデクレシェンドに折り返すポイントのビブラートまたは揺らぎのタイミング、速さ、大きさ、揃い方、ボウイングの強さとのマッチングがイマイチだと、正直、曲全体の印象までイマイチになっちゃうのも実感としてわかります。これはたとえばボーカロイドの歌を音量だけで完璧に感情表現することに満足するかどうかってのと似た理屈。そうした些細かもしれない不満点の改善を図るライブラリーの登場には、ちょっとした”コロンブスの卵”みを感じます。
むろん、そんな不満点が現れない絶妙な作り込みを見せる打ち込みテクニシャンがいるのも重々承知。でも、その方々の労力を軽減しうるものが出現したなら歓迎せざるを得ませんよね。
とはいってもです。斬新な切り口の秀逸なライブラリーをリリースしつつも、Strezov Samplingの知名度はそこまで高くなく、熱心なファンこそあれ、本製品がこの手法によってライブラリー開発業界に大きな影響を与える可能性は低そうに思います(もっと言っちゃえばKontaktという仕組みを通じて、本製品のような問題解決を図るには、ちと制約が厳しい。つまりKontaktの仕様がボトルネックになって、Kontaktの仕様以上の機能を持ち得ない。ジャイアントがいると規準がそこに置かれてしまうため、問題解決にパワーが割かれにくくなる傾向というか、結果ユーザーに妥協癖が染み付いたり一帯に蔓延したりみたいな傾向があるので、しゃあないんですけど)。
アーティファクトを完全回避するのかは不明
蛇足ながら、上で途中まで書いたこと。
ライズ&ヒット系ライブラリーが、その効果音等の尺合わせの技法として一般に用いてるのは、タイムストレッチまたはサンプルスタートの調整。後者の場合、逆算が必要になるのでレイテンシーとの兼ね合いが難しい。そして前者は、少なくともKontaktに搭載されたアルゴリズムではアーティファクトの回避が難しい(目立たなくすることはできる)。
特にオーケストラ楽器のように”生”色が前面…というより全面な音は、仮にフェーズボコーダーやスペクトル系の手法でタイムストレッチをかけたとしても「ん?」って結果になるので、本製品の提案に価値があるとしても実用性の枷になるんじゃないかと。
NFRがないので確認できておらず、この辺、杞憂に終わる可能性もあります。オーケストラ系のサンプリングライブラリーを開発するデベロッパーが不自然さや質の劣化を気にしないことはあり得ないので、対策/対応済みだとは思うのですけどね。
以上、そんな懸念の表明でした。