Soundtheory “Kraftur” – ダイナミックレンジ保持に最適なサチュレーター

Soundtheory “Kraftur”

Gullfossで知られるSoundtheoryから数年ぶりの新作、Krafturがリリースされており、NFRをいただけたこともあって取り上げることにします。
ただ、結論めいたことを先に記しておくと、いただいて初日の段階ではまだ「持ってるとこういうときに超便利」って場面が想像できていません。
なんとも掴みにくい印象。

なお、この記事を書いている段階では、Plugin BoutiqueやSonicwireでは扱われていません。取り扱い開始次第、本記事に追記します。

情報

  • Windows, macOS対応
  • VST, VST3, AU, AAX
  • 要iLokアカウント
  • 定価$99、イントロ価格$69(〜9/1)

This is 何

で、Kraftur。
アイスランド語であれば「強さ」を意味するそうですが、英語のCraftureのモジリであれば工芸品だそうで、だけどその機能からすると両方の意味を持ちそう。

超ざっくりまとめると、マルチバンドまたはシングルバンドで、ダイナミクスもしくはサチュレータのバランスを取ることができ、ダイナミックレンジのポテンシャルを有効に活かすよう調整するもの、と言えそうです。
多くの場合、犠牲になるのはディテールですからね。ダイナミックレンジを保持してくれるなら大歓迎。
色んな技術が総合的にかつ複雑に組み合わされているため、「This is 何」とは言いにくい代物です。

初見では何をしてよいのかわかりません。
実はマニュアルのほうも一読しただけではわからず、何なら参考になるのは上記の説明動画。
注視すべきは、コンプの設定のようにも見える中央のトランスファーカーブ、そしてそのトランスファーカーブの効果が示されるヒストグラム
さらに活用のキモとなるのが、右上に見えるMATCHボタン(ゲインマッチ)。
経験が浅いとぞんざいに扱いかねないパラメーターが、このソフトでは最重要な要素となっています。

基本的な利用手順は以下のようになるかと。
ヒストグラムを監視しつつ、MATCHボタンを駆使しつつ、各バンドの天井を(トランスファーカーブを適切に設定することで)抑え込みつつ、必要あらばDRIVEで煽りつつ、シングルバンドやドライ信号と適度にバランスを取る。
こうすることで、ダイナミクスを損なうことなく理想のサウンドに近づいてゆく、と。

現段階では、私のお仕事範囲でそこまで必要性を感じることも正直なく、将来性も掴みきれていないのですが、地味に魅力を感じるのが完全にレイテンシーがゼロであるということと、AIなどブラックボックス的技術も使用されていないため、完全に自己責任でサウンドを追求できること。
名品Gullfossに並ぶ逸品となるか、またマルチバンドのサチュレーターの範疇に使用法が収まってしまうかどうかは、自分の使い方次第と言えそうです。

製品ページ最下部のTestimonialには「Bypassボタンを押すまで、こんなすげえシロモノだとは思わなかった」とあります。
つまり極めて自然にサウンドを調整できるので、Bypassを押して調整前の音を聴くと「え、こんな残念な音だった?」と思ってしまうということ。
その意味では冒頭に記した「掴みにくい」って印象はあながち間違ってないのかもしれない。

レイテンシーゼロ…?

私自身、レイテンシーがゼロって有り得るのか?と思っています。Logic Proのツールチップではたしかにレイテンシー値が表示されないので、「レイテンシーがゼロ」と記しました。
その他、クロスオーバー周波数付近のディップの発生など、界隈では本製品の精度に疑問を持つ人もちらほらいることが確認できています。

機能の本質はここ?

個人的な理解の域を出ないので、話半分にとらえていただけると助かるのですが、フレキシブルにサチュレーション具合に(いわば)グラデーションをかけられるKNEE, OFFSETパラメーター(のバランス)、およびインターモジュレーション・ディストーションを解消する独自の技法(オーバーサンプリングに言及しているが、「オーバーサンプリングをヒントにした何らかの技法」かと思う)が、実際の利用価値かなと感じています。

要は、通常なら汚く歪んじゃう信号を、汚くせずに飽和させる。楽器単体ってより、複数の楽器が混じったミックスバスで特に効果を発揮するのではないかなと。
それで、海外の掲示板に見られる「スッキリとした」「レイヤーのように分かれて聞こえる」という感想に至るのかなと。
その意味では特に音壁になりがちな邦楽のミックスで導入する価値がかなり高い気がします。