マスター/スレーブ は死語に

数日前、作家の榊一郎氏のツイートで「奴隷」の言い回しを避けるべきなのかが話題になりました。それに対して、ネットワークの マスター/スレイブ は言い方が変わったかという言及もありました。

音楽機器においてもマスター/スレイブの言い方をすることがあり、CDMは幾つかの言い換えをリストアップしています。
既に他分野で使用されているものもあります。

  • Main / Secondary : 頭文字がマスター/スレイブと変わらないので、古い文献を書き直す手間が少ないのではないか、とのこと。
  • Conductor / Follower または Leader / Follower
  • Source / Sink : ドイツ語から
  • Host / Client または Host / Guest
  • Sender / Receiver

用途によってはしっくり来ない、とも記事中で述べられています。
また”マスター”ディスクなどのように”マスター”単独の用法ならさほど支配的な意味を伴わないけれど、スレイブが寸分違わず奴隷を意味してしまう以上、少なくともセットで用いるのは避けねばならないとも。

Naming something mundane and technical – something that demands clarity – with something horrifically awful to a specific group of people is the very essence of casual racism.

(意訳)明快さが必要な、日常の物事や技術的な物事に、特定グループにとって不本意なものを命名として用いるのは、カジュアル・レイシズムの一面である。

Let’s dump master-slave terms: they’re vague, horrible, and we’re better off without them – CDM Create Digital Music

然り。気付かずに傷つけてしまう言い回しを用いてしまうことも多い。つど省みなくちゃいけません。

Ableton LiveやPropellerheadのソフトウェアでは既にこれらの言い回しが取り除かれているらしい。

gearnews.comではこの件、アンケートを取っていて(Here’s why we should replace master/slave terms in music technology. – gearnews.com)、つい先ほど見たらだいぶ票が割れていました。
ちなみにShare MIDI and Party!ではSender, Receiverって言い方をしてますね。
これはもとよりその機能が旧来のマスター/スレイブという支配的な印象を与えるものと異なるからでしょう。

CDMでも少し触れられていますが、「かつてマスター/スレイブと呼ばれていた」という事実を飛び越して機能や来歴を語るのは案外難しい。たとえ日本語で「スレイブ」「奴隷」にシリアスさを感じにくいとしても。
美術史でポルノグラフィーに触れたらセクハラ呼ばわりされるので教えられないというお話にもちょっと通ずる)

マスター/スレイブは自分が頻繁に使うような(音楽機器的な面での)概念ではありませんが、かなり近い将来使わなくなる用語として頭の片隅にしっかり留めておきたい。
来歴を伝えねばならない機会には、きちんと伝えるよう心がけたい。

200624追記
Start making sense: just use ‘in’ and ‘out’ for MIDI clock, if in doubt – CDM Create Digital Musicの更新記事で、SequentialのマニュアルでIN/OUTに呼称が変わったという報告がありました。
初心者にもわかりやすいIN/OUTを、そしてもしMとSの頭文字を使い回すならMain/Secondaryがいい、とのこと。
なお、「リパブリック・レコーズが“アーバン”という音楽用語の使用禁止を発表 | HYPEBEAST.JP」とこれについて解説をしてくださっている唐木さんのツイートも、たった今音楽の界隈で現在起きている一つのムーブメントとして目を通しておきたいところです。

200713追記

この記事に関するはてなブックマークも置いときます([B! 言葉] IT用語も「奴隷」廃止の動き 「slave」は「フォロワー」や「レプリカ」に – ITmedia NEWS)。
ブラックリスト、ホワイトリストも言い換えが検討されているらしい。

IT業界が自ら動くまでにはそれから10年以上かかったが、2014年にはDrupalやDjangoが、2018年にはPythonがこの用語の使用をやめるなど、言い換えの動きは徐々に広がっていった。

IT用語も「奴隷」廃止の動き 「slave」は「フォロワー」や「レプリカ」に – ITmedia NEWS