DCオフセットの話

何度か記してきたDCオフセット。

最近(本業じゃないのに)ミックス頼まれることが増えて、(本来本業の人から)DCオフセット除去していないデータを受け取ることが立て続きました。
受け取った一群のオーディオファイルから無作為抽出して測定して引っかかると、作業時間の見積もり狂っちゃいますよね。
ハイレートでレコーディングされたものならなおさら。

DCオフセットとは

DC offset
DC offset

通常、オーディオの波形データは、0の横軸の上半分と下半分とが等量じゃないとエネルギーとしてはおかしい。
だけど録音環境、電気的な影響、特定の奏法や編集結果(サイン波のちょうど半周期を意図的に切り出した場合など)によっては上下が等量でなくなる場合があります。

素材の面で被疑者は、

  • ボーカル(マイク)
  • 打ち込みドラム(マイナーな製品は特に注意)
  • サンプルパックの素材

素材に問題なくても、危険性のあるエフェクトは、

  • リバーブ
  • アンプシミュ
  • ビットクラッシャー

これらを使ったトラックがあれば要マーク。

ミックスされるうちのたった一個のオーディオデータにズレが発生していた場合、基本的に、ミックス後にそのズレを直すことはできません。
毒を含む素材が混じったまま仕上げられた料理から毒を抜くのはしんどいので、素材レベルで最初に毒抜きしておくべき、というとわかりやすいでしょうか。

素材を組み立てて簡単に音楽を作り上げられる時代になりましたが、その素材を作るメーカーが予め問題に対処しておいてくれないと、データ的に問題のある音楽が蔓延ってしまうことになるんですよ。
怖いですね。素材を作った人じゃなく、その素材から音楽を作った人が怒られちゃう。

なぜ良くないか

DCオフセットがズレている場合の問題
DCオフセットがズレている場合の問題

スピーカーに悪影響を与えてマズいって理由もありますが、ズレたままだとデータのポテンシャルを活かせないって点も大きい。
先ほどのスクショでDCオフセットがズレたオーディオデータをノーマライズするとピークが0dBでラウドネスは-11dBだけれども、ズレを直してノーマライズするとピークが0dBでもラウドネスが-7dBまで上がります。
ピークインジケーターと聴感に差が生じる、イリーガルなデータということになる。
「ポテンシャルを活かせてない」というのはこういうこと。

原則として、曲で使うすべてのオーディオ素材にDCオフセット除去処置を施すべきなのですが、注意したいのは、DCオフセット除去を発効するとそのオーディオファイルの出だしと終わり部分もずるっとシフトしちゃって、発音時にプチッてノイズが入っちゃうってこと。
ならばとそこにフェードをかけると、今度は素材の内容に手が加わったことになり、DCオフセットの測定し直しになっちゃう。
だから、キリがない。だから、ハナから予防しとけって話になるわけです。

除去/ブロック処理は各ソフトで同じか

DCオフセットの処理は、少なくともWindowsのSound Forgeと、MacのLogic Pro Xでは結果が異なりました。
どうやらビットの値が0の箇所を最初から除外してズレを測定する(ステキ!)ケースがあるようです。
よって、自分の環境でDCオフセットを測定してズレが検出されたからといって、相手が除去処理を怠ったとも言い切れない点に注意しておきたい。

代わりの処理

簡単に防ぐにはローカットが有効です。
DCオフセットのズレは、限りなく0Hzに近いスーパー低い音が混ざりこんでると考えることもできるので、ローカットすればズレは大概なくなります。
20Hz以下をハイパスすれば可聴域下限への操作なので聴感への影響少なくて済みます。
ただしデータ自体には影響が出るのでハイパスすることで新たにクリップする箇所が発生しないかちゃんとチェックする必要があります(むやみにローカットしてはいけないとする理由はこれ、および複数のマイクで収録しているケースでは処理後のオーディオデータ同士の位相が影響しあって周波数分布が著しく変わる可能性があるため)。

念のため補足しておくと、DCオフセットのズレは目で見てわからないものが多く、逆に目で判断したものも正解とは限りません。

手順に与える手間、および逆利用

左側のスクショはDCオフセット除去せずに頭に無音データを入れてしまった場合、もしくはギタートラックなどのDCオフセットを除去しないままミックスしてしまった場合。
このミックス結果に対してDCオフセット除去を行うと全体がシフトしてしまうだけで、出だしのプチッて音が消えるわけじゃありません。下処理しとけば済んだ話。

右側のスクショは、素材がズレたままリバーブをかけてしまって事後にDCオフセット除去した場合。
測定結果的にこれが正しいと言われても、これじゃ実用に堪えません。
しょうがないから事後にローカットして問題解消しますが、これも下処理しとけば済んだ話。

では逆利用することができないのかという点で1例だけ。
無音がシフトされてしまうせいでノイズゲートがかかりにくくなるので、たとえば大量のセリフのオーディオデータにバッチ処理でノイズゲートかける際に、摩擦音での喋り出しや吐息がカットされないように意図的にDCオフセットを少しズラしたりスーパー低い音を加えたりしておいて、あとでDCオフセット除去またはローカットするという手があります。