Neural DSP “Mantra”

ギター用のソフトウェアに特化してきた印象のあったフィンランドのNeural DSPですが、ボーカル用としてはじめてのプロセッシングソフトウェアとなるMantraをリリース。
iZotopeのNectar等に似て、ボーカルチューニング、ノイズゲート、ディエッサー、EQ、コンプ、サチュレーター、リミッター、リバーブ、スカルプターのほか、ハーモナイザー、ディレイ、コーラス、モジュレーション等のエフェクトを搭載。
Nectarに似てとは書いたものの、実際NectarやOzoneのインターフェースはよく出来てますんでね。
性能的にもう少し自由度の高いSonibleが残念ながらあまりユーザーフレンドリーとは言い難いインターフェースを備えているのと比べて、そりゃマーケティング抜きにしてもシェアを占めるでしょう。他社製品が操作性を考えたら似てしまうってのも宜なるかなというところ。3BT製品がイノセントにデザインを似させてしまうのとはまた事情が違って。
ちなみに、うちではNectarをボーカル楽曲で必須として使ってますが、EQとコンプモジュールしか使ってません。ディエッサーやエフェクトなどほかのモジュールは、別の製品のほうが理想的な動きをしてくれるので。なので、残念ながらNectarだけ施して仕事終わりとはまずならない。
動画を見てみると、まあキャラクターのAI(ってより、ここではCGっていうべきか)チックな動きはさておき、想定していたよりインターフェースを潜ってからの機能の奥行きは広そうに思えます。
コンプレッサーやサチュレーションモジュール、ディレイモジュールのバリエーション、ダブラーを駆使することで、一気にミックスが垢抜けることはほぼ確実だろうという感想。もっとも、それはプリセットが充実していたり、手順がわかりやすいことが前提ですが。
ちなみに、かつてMelodyne前と後のを鳴らせばダブラー要らんのでは?という日記を書いたのですが、文字通りのダブリング意図ならいま現在も考え変わらず。ここ3,4年、自身でもやっているように、立体感を伴わせてオケより前面に出す意図ならば非常に有効。ピッチをランダムに揺らしてというのももちろん有効。
実際に試してみないと何とも言えませんが、途中で声質やエフェクトを変えるようなギミックが多用される最近のミックス手法に適しているかが考えどこじゃないですかね。
1トラック内でそれを行おうとすると、モジュール数が多いためエフェクトを切り替えるようなオートメーションが煩雑化する可能性があります。
ではエフェクトごとに複数トラックに分けてそれぞれにインサートするとなるともちろん負荷が心配。
時間ができたら、そしてトライアル版があれば、動作を試してみたいところ。
250725追記
機能、操作性
ちょっと時間ができたので、インストールしておいたトライアル版を試しました。
ロードして最初に行われるのは分析プロセスで、ほぼ一瞬で終わります。
CorrectionとHarmonies、あとPost FXという3つの構成になっており、必要に応じて切り替えます。
CorrectionにおけるEQやDe-Esserのモジュールは処理順が固定っぽい。マニュアル見ないとわかんないけど。
で、プリセットが多々含まれていますが、正直なとこエフェクティブなものが多くて、ストレートなものを探すのがしんどい。
加工用途で用いるにはプリセットがいいのかもしれませんが、たぶんロードして分析プロセスを行ったタイミングで標準的な処理を済ませてしまう設計になっていると思われ、プリセットの出番を制限しているととらえたほうがいいのかもしれない。
要は、ロード直後にスカルプティングもゲートやディエッシング、コンプなど標準的な設定は済んじゃうんで、基本的には各パラメータを必要に応じて調整したらそれでトリートメントは終わりってことなんじゃないかと。これはこれで割り切れていて、よい思想だと思いますね。
以前何度か書いたように、こうしたボーカル処理ソフトは英語圏の設定を(言語の発音傾向が大きく異なるので)そのまま使える場合が多くない。ディエッサーやコンプはやや軽めに調整し、ハーモニーはオフるか極小に調整し、モジュレーションエフェクトもオフっちゃった状態のものを自分用のデフォにしたほうがいいんじゃないかなと思います。もちろんこれは典型例としての話なので、EDM系やR&B/ヒップホップ系、メタル系の人が使用するならまた別の自分好みの設定を作るか、あえて英語圏の設定を使うかすることになります。
負荷については、ほとんど気にならないレベルですね。複数差ししても特に問題なさそう。
オートメーションに関しても、他の同様のソフトと比べても非常に整理されており、活用が十分配慮されている気がします。
懸念があるとすればEQのバンド数が少ないのと、EQ,コンプ含めチェーン内に2つ使えないこと。
あとは、今年これで快適に済んだとして来年以降機能向上なり追加なりでバージョンアップされるのかどうか。ボーカル処理にいは流行もあるので、キャッチアップしてくれるのか、ってとこも気がかりですね。
それらとお値段の高さ(手頃ではあると思うが)を除けば、Nectar代わり、または気分を変えて使うものとして充分な代物じゃないかなと思いました。