2025年のマスタリングトレンド
iZotopeのYouTubeアカウントで、2025年向けマスタリングトレンドなる、地味ながら非常に示唆に富んだビデオが公開されていて、日本語字幕が(ある程度)対応しているので、興味のある方はご覧になるとよいかなと思いました。
前半は「うんうん、やっぱりそうだよね」と思いつつ見てて、中盤辺りの少し踏み込んだ辺りからがけっこう面白い。
たとえば、手間を惜しんで完成を急いだものと、リスニング時の印象をコントロールするためにもう一工夫施したもの、あるいはマスタリングでどうなるかを見越して作ったものとの差が、分析結果から浮かび上がってくると。
だからといって、HOT 100の中でその差が見えるということが、HOT 100外に力作がないことを示すわけではないので、この情報だけで’もうひと工夫が好ましい’とは必ずしもいえませんし、’ひと工夫がない’からといってチャートでいい成績を収められないともいえません。「マスタリングにも人知れず美学が潜んでいる可能性がある」って話には収束できるでしょう。
Claudeに内容をまとめてもらいました。
この動画では、講演者が2025年2月15日のBillboard Hot 100リストから選んだ50曲を分析し、現在の音楽マスタリングトレンドについて解説しています。主な内容は次のとおりです:
主なマスタリングトレンド(2025年)
- ラウドネス(音量):
- 中央値は-8.1 LUFS(かなり大きい音量)
- 最も大きい曲:Lady Gagaの「Abracadabra」(-6.3 LUFS)
- 最も小さい曲:Gigi Perezの「Sailor Song」(-12.2 LUFS)
- 注目点:分析したどの曲も、ストリーミング推奨の-14 LUFSには近づいていない
- ラウドネスレンジ(LRA):
- 中央値は5.3 LU(ラウドネスユニット)
- 最大レンジ:Billie Eilishの「Wildflower」(17 LU)
- 最小レンジ:GloRillaとSexyy Redの「What You Know About Me」(1.9 LU)
- ヒップホップ曲は一般的にLRAが低い傾向(808ベースが曲の多くを占めるため)
- ピークレベル:
- ほとんどの曲のトゥルーピークは0 dBを超えている(中央値+0.67 dB)
- 最高値:Fetty Wapの「Again」(+4.38 TP)
- 最低値:Billie Eilishの「Wildflower」(-0.08 TP)
興味深い観察点
- エンジニアはストリーミング推奨の-14 LUFSよりはるかに大きい音量でマスタリングしている
- Spotifyの利用者の85%はラウドネス正規化を有効にしており、これらの曲は自動的に音量が下げられている
- 曲の最もラウドな部分は通常、曲の後半3分の2(最後のサビやドロップ)にある
- 最近のツールを使えば、CD時代よりも大きな音量でも良い音質を実現できる
特筆すべき曲の例
- Hozierの「Too Sweet」:サビで意図的にピークレベルを0.5〜1 dB上げている効果的な技法
- Tate McRaeの「Sports Car」:曲の終わりに完全な無音が2.1秒あり、劇的な効果を生んでいる
- ヒップホップ曲は大きな808ベースのために、全体的な音量を少し抑えている傾向がある(-9 LUFS前後)
大雑把に言って、ラウドネスって指標や、ダイナミックレンジ(ラウドネスレンジ)を大事にしよう的ムーブメントが盛り上がって以降かなり経ってるけれども、音楽制作単体においては旧態依然。音楽配信時の調整に使われる指標にとどまっているように見えます。
上にまとめてもらった「特筆すべき曲の例」をどう捉えますかね、というのが直近のテーマになるでしょう。
終盤ではJND(弁別閾)に対する言及がありました。Wikipediaの日本語での見出しだと丁度可知差異となってますね。