iZotope “RX6 Standard”

そういえばけっこう前に導入していたノイズ除去ソフト RX6 Standard 。
ボイス、ボーカル等のノイズ除去例について記した過去記事にも書いたとおり、高品質な機材でハイサンプリングレートでレコーディングするのが一般的になり、お蔭で一般的な波形編集ソフトで多様なノイズ箇所を探して処理するのがしんどくなってきていますんで、導入してまったく損なしでした。

96kHz32bitで収録されたボーカルトラック
96kHz32bitで収録されたボーカルトラック

たとえばこれは96kHz32bitで収録されたボーカルトラックで、100Hzより下にHumのような周波数が居座っているのがわかります。
また真ん中から少し右の箇所で、喉がイガイガってなって、ホーミーのダブルボイスのように声が二重になっている数カ所が目に入ります。
この状態を確認せずにいきなり波形編集ソフトでどうにかしようというのは流石に辛い。
ましてウチだとWindowsにしかまともな波形編集ソフトが入ってなくて(以前MacにAcoustica入れて「これはいいものだ」と書いたけど、結局及第点に至ったってレベルでしかなかった)、効率もよくありません。

バイオリンのノイズ除去後
バイオリンのノイズ除去後

それから、こっちは某イベント用楽曲の冒頭で、バイオリンの独奏部分。
ただしFriedlander Violinを使った打ち込み。
深いリバーブをかける予定で、厄介な低域のノイズが入っていたため除去しました。
単純な波形編集で行うと処理箇所と非処理箇所とで聞こえ方に差が出やすかったり境目にグリッチが起きるものですが、デフォでブラーがかかるというか補間が起きる仕組みのため違和感なくつながります。
すごくいいのは処理面よりむしろ描画面で、判断しにくい帯域がくっきり表示され、帯域的に聞き取りにくいノイズもしっかり表示されること。描画速度も非常に高速で、精度も高い。

15分もあるオケも一瞬で描画。
15分もあるオケも一瞬で描画。

ご覧のような15分あるオケも1秒ちょっとで描画完了。
拡大縮小するたびに再描画がかかる、いわばGoogleマップを見てるような感じなのでストレスにはなりません。

いわゆるDINR, BNR的なノイズリダクションも、他メーカーより利きがいいです(金属的な音は気を付けないとスカスカになるので注意が必要)。
さすがに右のスクショ、15分曲のレコーディング元データにあたる96kHz32bitのオーディオファイルの分析加工には体感で相当の時間がかかりましたが、それでも5分強という現実的な処理時間。

とある動画音声の一部を処理(前)
とある動画音声の一部を処理(前)
とある動画音声の一部を処理(後)
とある動画音声の一部を処理(後)

既にミックス済みのトラックなどからもある程度ノイズを除去できるのがまた好都合。
上のスクショはYouTubeのとある動画の音声を書き出したもので、バックに音楽が流れている中でインタビュー音声にプチッというノイズが聞こえた箇所で、De-Clickという処理を経てあっさりノイズ除去できています。

大手の仕事を請けるときにはほとんどこういう事態は起きないのですが、今のように大手からでもない仕事でしかもボーカルのノイズが取れてないままマスタリングをお願いされる場合は、少ない工賃でノイズ除去に膨大な時間を費やされるので苦痛が先行してしまいます。
こうして30分、かかっても1時間強程度でノイズ除去できるのなら、いい投資じゃないでしょうか。

とある動画音声の一部を処理(前)
とある動画音声の一部を処理(前)
とある動画音声の一部を処理(後)
とある動画音声の一部を処理(後)

最近それこそYouTubeだとインタビューものの動画や個人によるチュートリアル動画が歴然と増えていますね。
おそらく撮って出しに近い、クチャクチャというノイズが乗ったままのものがきわめて多いです。
「よぉ、喉渇いてんなら水飲みな」といったコメントがついているものもありました。
上のスクショは、とあるインタビュー動画で冒頭の挨拶の部分17秒。
50代後半と思しきインタビュアーが早口でオンマイクで喋っていてけっこう唾液の音が気になります。
著作権の都合上(日本じゃなければフェアユースで使えると思うんですが)処理前後の音声を載せられませんけど、5分弱でザクザクとノイズを取って処理後のスクショのようになりました。
「この辺りにクチャッて音があるな」と思ったらざっくり範囲を指定してDe-clickかDe-crackleを、「ここ吹いてるな」と思ったらDe-plosiveを行えば難なく処理できます。
むろんそう簡単に行かないケースもあって、ピュアな音つまり静かな環境でひっそり鳴っている音から濁りを取ってピュアにするというのは相当苦手なようで、理屈的には難しいことじゃなさそう(InertiaかPhase vocoderで何とかなるとは思う)なんですけども機能として実装されてはいません。次のバージョンくらいで実現してくれたらいいなとは思いますが。

早い話、手間がかかっていたものだし職人的な経験値は必要だと思うけれども、手順自体はシンプルで労力だけが問題っていうものはコンピュータでとっとと処理できてしまうんで、よけいな時間を省くってことでいいと思います。

先月収録したボーカル
先月収録したボーカル

こちらは先月某校で収録したボーカルで、48kHz32bitのデータ。
それまでは若干疲れたNeumann U87でボーカルレコーディングしていて、AntaresTechのMicModEFXでProximityを4inchくらいまで接近させた上、チューブシミュを二重がけして少し飽和させることで低域補強を行っていたんですが、マイクがTelefunken U47新品になったことで帯域の分布とノイズの度合いがまるっきり変わりました。
これをかつてのように波形編集で…と考えると途方に暮れるのですが、RX6導入のお蔭で1/10程度の時間で処理できるようになりました。

あ、毎度のことですが、別にお金貰って提灯記事書いてるわけじゃなくて、ふつうに自分で使った感想を書いてますのでご心配なく。
RX6、しかし操作性に関してはもう少しやりようがあるかな、特にCompare周りと子ウィンドウの開き方。