「How to Record Vocalists (with Grammy Winning Producer, Jacquire King)」

Recording Revolutionの体験記事(動画)が面白かったので、動画内での説明を要所要所ざくっと訳しときます。
グラミー賞を3度も獲ったプロデューサー、 Jacquire King 氏による案内です。

How to Record Vocalists (with Grammy Winning Producer, Jacquire King) - Recording Revolution
How to Record Vocalists (with Grammy Winning Producer, Jacquire King) – Recording Revolution(アーカイブ)

説明は要らんかもですが、ここでボーカリストとして歌ってるのがRecording RevolutionのGraham氏。彼自身、歌も上手いし楽器もいろいろ演奏できます。もちろんレコーディングやミックスについても。
動画では、(日本とは作法が違うだろうけど)ボーカリストとどう対話して作品の質を向上していくかという点について話しています。

じゃ、最初から始めよう。こちらでモニタ音量など調整してみるから、気付いたことあれば言ってくれ。次のテイクで改善されるはずだ。

上出来。こっちで気付いたのは…大部分でピッチに問題ないんだが1サビと2サビがフラット気味。いい部分なのでしっかり聞かせたいな。ブリッジはもう少し息をうまく使って聞きやすくしたほうがよさそうだ。

ボーカルをうまく録るポイントとしては、まずボーカルのモニタ音量でボーカリストのピッチが変わる点に注意。たとえばモニタがデカいと頑張っちゃってシャープ気味になる。エンジニアのほうでモニタバランスを調整できるならボーカリストの様子を見ながら調整してやってもいいし、軽くリバーブをかけて本人が自分の音程などを確認しやすくしてやるといい。ヘッドフォンの片耳を外して歌うのも効果的だ。
それからボーカルに限った話じゃないが、一回録ったらヘッドフォンからのリーク(漏れ)に気をつけたい。クリックなんかが聞こえたら非常にまずい。

歌詞のテキストにはレコーディング中に気付いたことをガンガン書き込もう。タイミングが突っ込みすぎとかピッチが甘いとか洗いざらい。その上でボーカリストと的確に具体的に対話する。気付いたことを全部書いても、ボーカリストとの対話では、そのモチベーションを損なってもマズいから大事な点の確認だけになる。
自分自身はボーカリストではないが、第三者視点で「いいボーカル」であることを伝えることはできる。

ボーカルは身体自体を楽器として鳴らすものであり、感情や体調の影響も受けやすく、通常の楽器より調整が難しいことを知っておこう。ダイナミクスも大きいから、クリップしたりしないよう慎重にアウトボード類を設定しておこう。
ときには自分も歌ってみて、ボーカリストと同調できるよう心がけ、ボーカリストのベストを引き出すための最大限のケアをしている。

それと、どういう指示を出すかだが。技術的な部分ばかりになってもよくない。「もっと怒った感じ」「笑いながら」など感情をベースとした伝え方も試すといい。ボーカリストはいわば役者。必ずしも意図通りに伝わるわけではないし、考えの違いなどもあるだろうから、色々試しながらだな。曲の雰囲気にマッチした指示である必要がある。

これから試すのは僕がよくやる方法で、マイクに背を向けて歌うことでハモりパートに立体感を出す手法。少し声を張る必要はあるんだけどね。

How to Record Vocalists (with Grammy Winning producer, Jacquire King) – RecordingRevolution.com – YouTube

モニターの返しにリバーブをかけることについて”歌いやすいか?”と一言に抽象化して教えて/理解してしまうと本質からズレる危険がありますよね(こうした抽象化による本質からの逸脱は現代病って感じがする)。”歌いやすいか?”と字面だけで考えちゃって、”歌いやすい状態にするのは邪道”だとか”歌いやすい状態にしないと歌えないのは甘え”みたいな独善的な曲解を招かないよう注意が必要だと思います。本質は、モニターを最低限現実の環境に近づけて違和感を抑えることですからね。

さて、先の動画はエンジニアやオペレーションについての説明ではなくプロデューサーとしてどう考えればよいかという話なのだけど、よりよく、より面白い作品にするために工夫を惜しまないのは大事なことだと思います。
また何をすべきかと同時に何をしちゃマズいのかは踏まえるべき点であり、コミュニケーション能力、それと音楽についての最低限のリテラシーを持って望む必要はありますね。
技術的な上手さは学べばできる。場合によっちゃAIでやらせりゃいい。基本的な作法(奇を衒うばかりでなく)を踏まえた上で、自分なら何ができるかを考えたいですね。