EDMがいかにミックスとマスタリングを変えたか

以前この日記に書いたようなことをBobby氏も書いておられる。

That’s the antithesis of most mix and mastering engineers that don’t deal in EDM, where in their world distortion is something to be avoided. In fact, getting impact from the rhythm section without it is almost revered.

Bobby Owsinski’s Big Picture Music Production Blog: How EDM Is Changing Mixing And Mastering
Bobby Owsinski's Big Picture Music Production Blog: How EDM Is Changing Mixing And Mastering
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ミックス・エンジニア,マスタリング・エンジニアにとって忌むべき”歪み”。(上記抜粋から逆説的にいうと)これはEDM界において尊崇されている、と。
もっとも、歪みだけがEDMのfeatureではなく、ミックス・エンジニア,マスタリング・エンジニアの観点でまだ他に見逃しているfeature、ミックス・エンジニア,マスタリング・エンジニアとしてだけの観点からは捉えにくいfeature、あるいは一言に歪みというけれどもデジタル・クリップで初めて可能になるものやアナログな歪みを活用したもの、位相による歪み、グリッチのようにエラーを利用したものや、デジタルなのに故意にクロストークさせるなど、手法の探求としてまた深い世界があるのでしてね。
拒絶によってその探検機会も失うとしたら僕はイヤだなあと思うのです。

僕自身、ちょうど一昨年から去年にかけて自分の嗜好である「音壁」を実現していくにあたってミックスの勉強に勤しんでいて、その中で”歪みを回避する”のが最大の課題だったのも事実。それだけに歪み上等のEDMに足を突っ込んでいくのに混乱を伴ったもんです。克服したとは言えませんけど、葛藤はなくなりました。

Wall of Sound - Wikipedia, the free encyclopedia
Wall of Sound – Wikipedia, the free encyclopedia

As my buddy (and mixing legend) Dave Pensado recently expressed to me, “We’ve (mixers) been too concerned with sonic quality, and it’s hurt mixers when it comes to EDM as a result.”

Bobby Owsinski’s Big Picture Music Production Blog: How EDM Is Changing Mixing And Mastering

Dave Pensadoが仰るには「EDMについて言えば、我々の音の質へのこだわりが結果的に自らを苦しめることになるね」と。

EDMは一過性の流行であって、その後にまた僕らの純音楽の時代が来るよ、なんて楽観論も実際耳にしましたけども、個人的には楽観主義と快楽主義は一時的に共存できても長期的には破綻しやすいと思ってますし(具体的には書きませんが)、EDMの手法をさらに発展させた、場合によってはさらに受け入れ難い表現手法に継承されるだろうと思っていて、まさに「気持ちの悪いものは嫌いだといってもいいから、存在することは認め」(cf. 児ポ法改正案についての諦念)ていかにゃ、早晩破綻に直面しちゃいそう。

The point of this post is to open up the eyes of those in our business who may be a little too tied to the past way of doing things, since there’s a whole genre of music that’s mostly ignoring you. In the end, we’re all in a service business and the client is still king. It’s great to have principles, but if you hold them too tightly, you might find yourself not working as much as a result. If a client wants something that violates your aesthetic sense, in today’s world, you might consider suppressing your arty urges and give them what they want, because there’s a whole group of people right behind you that are more than willing to do just that.

Bobby Owsinski’s Big Picture Music Production Blog: How EDM Is Changing Mixing And Mastering

要はBobby氏の仰る通りで、ポリシーを持つのは素晴らしいことなのだけど、頑なになるほど求めるor求められる結果からは遠ざかると。
EDM隆盛の時代、歪みっぽい音楽が喜ばれているその片隅で素朴なサウンドも慎ましく逞しく咲き誇っていて、そここそ我が生き延びる道と限定従事する選択はもちろんアリだし、一方、EDMの手法を研究して会得して自分の持ち場で活かすのもアリだし、活かさないまでも知識として蓄えていずれお披露目する手の内の一つとしておくのもアリだし、自ら新しい手法を編み出すのもアリだとは思っています。
Bobby氏がもし単なる否定や拒絶の主義の人であれば、記事のタイトルは「changing」じゃなく「crushing」となっていたでしょうね。