DSAudioSoftware “Thorn”

Dmitry Sches Audio Softwareというメーカーからソフトシンセ系プラグインThornがリリースされ、スッとした見た目と音の鋭さ、それと「軽量」という言葉に惹かれたのでデモ版を落として少しいじってみました。

DSAudioSoftware : Thorn
DSAudioSoftware : Thorn

定価:$199。

ボタンのデザインやUIは旧Alchemyに近く、色合いはWiggleを思わせます。
どこをいじれば何が起きるのかわかりやすいので、ある程度ソフトシンセに慣れている人なら入手即日使いこなせそう。

アナログシンセを基調としながらも今のEDMを意識したハイブリッドシンセで、Massiveよりは音の厚み薄みに幅があり、Serumよりは仕組みがシンプルで、Spireよりは思い通りの音になります。手っ取り早いですね。

Thorn
Thorn
倍音分布をいじれる画面(Thorn)
倍音分布をいじれる画面(Thorn)
独特な機能、Glitch SEQ(Thorn)
独特な機能、Glitch SEQ(Thorn)
順序を変えれるEffect群だが、EQの2度がけなどはできない(Thorn)
順序を変えれるEffect群だが、EQの2度がけなどはできない(Thorn)
プリセットでいちばん音色の多いLeadのバンク(Thorn)
プリセットでいちばん音色の多いLeadのバンク(Thorn)
フィルターの種類(Thorn)
フィルターの種類(Thorn)

オシレーターの音質についてですが、低い音域だとけっこう音質が落ちてます
Wavetableの仕組みを備えているためPOS(=Index)で調整できることや、中央の独特なHarmonic Filterによって倍音が分布する帯域を調整できること、またなかなか派手にかかるディストーションなどの加工手法が備わっていることを考慮すると再合成のクオリティなのでガッカリする可能性は薄いといえます。
それから思ったよりも低域、中域、高域とも、音量のわりに音が潰れたりせずある程度細かい粒立ちで聞こえるため、96kHz32bit環境でアンビエントトラックを作る場合でも美しい響きを期待できそう。

色んなソフトシンセのUNISON機能
色んなソフトシンセのUNISON機能

オシレーターのUNISON機能は、いかなるオシレーター波形に対しても自在にかかり、それなりに少負荷で機能しているようです。
なのでProgressive Houseなどで幾つものトラックに重厚なシンセを用いたいってときでも使えそう。
ただ、POS操作時にカリカリと音が出やすいので、滑らかに美しく音をモーフィングさせていくのは難しいかもしれません。

エフェクトは9種類の順番を変えることができ、利きもいい。特にPhaserの質感がいい。
パラメーターは極端に多いわけではありませんが必要最低限備わっている印象。

キモと言えそうなディストーションは中域が荒れ気味で、雑に聞こえますね…。
文字通り「歪み」だから、ディストーションをかけることによって新しい帯域に成分やノイズが派生してしまうのは仕方ないにしても、ちょっとこの歪み方はもう少々ケアがあってもいいかなと思いました。

追記:

その後Thornを購入していじってみたんですが、ディストーションに関してはフリケンシーレスポンスやそれに近い仕組みを一切有していない、いわゆる旧来のWaveshaperっぽいです。
オシレーターの低域の音質劣化を濁すためにディストーションでどうにかしようとする手法が音圧上げの邪魔になってしまいやすいので、特定ジャンルにおいては利用価値がないかもしれません。

MOD MATRIXは今どきのシンセにしては手法が古いか。
LinPlugのSpectral(レビュー)を思わせる”あの頃の仕組み”。
とはいってもSylenth 1や今のTone2製品、RevealSound Spireもそんな感じですね…。
つまりモジュレーションソースとパラメーターノブをパッチケーブルライクにドラッグで結びつけるところまではいいのだけど、変化の幅の指定は表中の数字をドラッグで上下させて決めなきゃならない。
そこで「変化の幅をパラメーターノブ上に展開することでわかりやすく確認できるようにしましたぁ〜」というのが、Massive以降のソフトシンセで見かけるユーザーケアなんですよね。

まとめとしては…、軽く、音がいじりやすく、比較的音がいい、これ魅力。
ただ残念ながら現状ではプリセット音色にSpireやMassiveの音色の代用が備わっている印象しかなく、個人的には価格にギリギリ見合わないと判断しました。
導入して損をすることはないと思いますが、このシンセを使って曲を販売して元を取るってことを考えると、そこまで代え難いものでもないかなという気がします。