Big Fish Audio “Vintage Horns 3”

Big Fish Audioから評判の良かったVintage Horns 2のさらにリニューアル版、Vintage Horns 3がリリースされています。
NFRをいただいたので、レビューしつつ。
機能、操作性
サンプルのバリエーションとしては抜群にいいです。
これまでサンプルライブラリーとして収録されてこなかった金管、木管楽器のサンプルが、ある種重箱の隅をつつくような感じでたっぷり収録されています。
たとえば、かなり激しめのトランペットのシェイク、クラリネットのビブラート、きつめのサックスグロウル、硬めのバリトンサックス、ワウワウ+グロウルのトランペットなど。そして良くも悪くもピッチが緩く、録り直しがきかなかった時代の一発録り感が滲んでいます。
エレクトロスウィングでジプシースウィングや初期のニューオリンズ、ディキシーランドの音源が素材として使用されたことは多くの方がご存知でしょうけども、ああいったニュアンスのサウンドが新録の素材として(フレーズサンプリングではない)手に入るようになったのは喜ぶべき。
とはいえ、です。
Big Fish AudioのVintageシリーズは素材のチョイスが毎回激シブで好感なのですが、たとえばリリースタイムが長くて打ち込み感が露呈しやすかったり、レガートさせたいのにポリフォニックでしか鳴らないなど、端々で“そのままだと”不便なとこが目立ちます。
幸い、インストゥルメントの中をいじれるようになっているので、Script EditorからUnisono-Portamentoを選べば対応できないこともない(万能ではないので注意)。


特に今回の管楽器であれば、ホンセク専用音源であればかまわないのだけど、「ソロとしても使用できる」とハッキリ書かれていてポリフォニックなのはどうなの?と思わざるを得ません。もう少しユーザーフレンドリーでもいいんじゃないかなと。
一部のサンプルの処理がよくない
もう1点、出音をチェックしてる中で「ダメだろ、これ」とつい口を突いて出てしまったのが、これ。ループポイントでグリッチが乗ってます。
通常はある程度の長さを経過してループポイントに入るので、長音を鳴らしさえしなければ、さほど問題にはならないのですが、美味しい音は長音で鳴らしたいのが人の常というもの。少なくとも、自分がゲームのサウンド開発をやっていた頃にスタッフがこれを完成として提出してきたらリジェクトします。なぜ、これをデータとしてOKとしたのか謎です。
おそらくBig Fish Audio的にデータを修正して再配布することはおそらくないと思うので、対症療法に過ぎませんがワークアラウンドを紹介しておきます。
動画の説明にも記したように、該当するサンプルを見つけるのがいちばん大変なのですが、該当する音域のサンプルをMapping Editorで再生して確認していって、それを見つけたならWaveEditorでLoop Endの位置を適宜ズラすか、大きすぎも小さすぎもしない値をCrossfadeに指定しておくといいです(ちなみにmacOS環境ではGoogle IMEを使用しているとKontaktの数値入力が行えないので、ドラッグして調整することになります)。
ちなみにこの、大きすぎも小さすぎもしない値を見つけるってのは、何かにつけ二者択一じみた思考に陥る人の多い昨今、苦手とする人が多そうですけども、オーディオのバッファサイズを指定するのと同様に、「どちらの悪影響(トレードオフ)も発生しない値」を探す一挙両得を目指すものなので、中途半端と捉えるのはあまりに視野が狭い。
今さら詳しく説明も要らないとは思いますが、バッファサイズの例で言えば、
- レスポンスは速いが再生時に途切れがちになる
- レスポンスは遅いが再生時に滑らかになる
の間を取って、「適度なレスポンスの速さと適度に滑らかな再生」を得ようというもの。
クロスフェード値で言えば、
- グリッチが乗るが、フェージングまたはフランジングがかからない
- フェージングまたはフランジングがかかる(可能性がある)が、グリッチが乗らない
の間を取って、「バレない程度のフランジング時間にとどめつつ、グリッチも乗らない」を得ようというもの。中途半端ではない。
もちろん、それ以前にバレにくいループ箇所を見つけて必要な処置を適宜行っておくのは製品開発側が行わなきゃいけないこと。これが大前提。
この手のサンプルだとその手法が一筋縄じゃないことはもちろんわかってて、つまり、音程という周期とビブラートという周期の2つが併存するサンプル内で、ちょうどいいループ箇所を見つけるのは、使用する波形編集ソフトの描画仕様次第じゃ困難ではあるのです。