Tuning Overtonesの記事を以前書きました。
一口に倍音といっても、英語(および研究分野)だとHarmonicsとOvertonesの違いがあるようです。日本語版Wikipediaとの対応を見ると、あれ?と思っちゃいますが。
整数次倍音以外をOvertoneとする説明と、第2ハーモニクスを第1オーバートーンとして以降1個ずれで数えるものとする説明がありますね。
さて、Tuning Overtones自体は、異なる音程を鳴らした結果特定の倍音が強まって聞こえる現象と考えることができます。平均律だと倍音同士が同じ周波数にマッチすることはまずないけれど、極めて近い周波数になることはあります。声みたいに音程のコントロールが制御しやすければ(理屈的には)簡単な微調整で倍音をマッチさせられることになります。
倍音列での第4,5,6,7倍音を積んだ形、これはいわゆるドミナント7thコードにあたるシンプルな4声のハーモニーですが、正しくは純正律でのドミナント7thコードで、具体的には5度の音で平均律より+2cent、3度の音で+14cent、7度の音で-31cent誤差があります。
「自然七の和音(Harmonic Seventh Chord)」もしくは「バーバーショップの7度」と紹介されています(ただし、3度5度音程の誤差はそんなに厳密に判定していない印象)。
ちなみに日本語版Wikipediaの「自然七の和音」ページには、英語版の翻訳をもとに次のように記されています。
欧米に関しては、現代になり「ハッピーバースデートゥーユー」の歌の最後に歌われようになった「and many more!」というフレーズの最後の「more」が挙げられる
and many more!の実例がまるでわからないんですが、説明では申し訳程度に「欧米に関しては」が付け加えられてるっぽいですね。
断定できる資料は得られませんでしたが、どうも一通り歌い終えた後に欧米に関しては下のような譜例で歌われているようです(キーはC;オクターブ下で採譜したほうがよかった…)。本来はBに♭も付かない旋律なのに、additionalなこの部分だけはB♭、それも「バーバーショップの7度」として歌われているとされています。
- Overtones and Harmonics(http://hyperphysics.phy-astr.gsu.edu/hbase/Music/otone.html)
- 調弦の方法について教えてください – クラシックギターのフォーラム
- 協和音程・不協和音程(アーカイブ)
- Standing Wave Harmonics or Overtones…what’s the difference? | Doc Physics(YouTube;英語)
Barbershopって何じゃというと、かつてよく見かけた4声のコーラスグループ(霊歌を歌うのを連想してしまうのだけど、それとは少し違う)。あまり雑な説明を続けるとマズいので引用します。
“Barbershop harmony is a style of unaccompanied vocal music characterized by consonant four-part chords for every melody note in a predominantly homophonic texture. Each of the four parts has its own role: the lead sings the melody, with the tenor harmonizing above the melody, the bass singing the lowest harmonizing notes, and the baritone completing the chord. The melody is not sung by the tenor or bass, except for an infrequent note or two to avoid awkward voice leading, in tags or codas, or when some appropriate embellishing effect can be created. Occasional brief passages may be sung by fewer than four voice parts.
Barbershop music features songs with understandable lyrics and easily singable melodies, whose tones clearly define a tonal center and imply major and minor chords and barbershop (dominant and secondary dominant) seventh chords that resolve primarily around the circle of fifths, while making frequent use of other resolutions. What sets barbershop apart from other musical styles is the predominant use of the dominant-type seventh chords. Barbershop music also features a balanced, symmetrical form and a standard meter. The basic song and its harmonization are embellished by the arranger to provide appropriate support of the song’s theme and to close the song effectively.”
バーバーショップ音楽の特徴としては、(英語として)聞いて理解できる歌詞がついていて、誰にでも歌えるメロディで、調性がハッキリしており、バーバーショップらしい和音構成となっており、五度圏の和音進行を基本とします。
編曲の要点としては、曲の特徴をよく捉え、効果的な和音展開を守る処に有ります。
歌う場合のポイントは、調性を守りながら、純正調の和音展開を如何にキープするかであります。バーバーショップ・スタイルで芸術的に歌おうとするなら、調性を守りながら、ハーモニーのバランスをとり、一体性のある歌い方で、和音をを響かせられるよう、ピッチを調節しながら歌うことが求められます。演奏の時には、これらが努力してできるようになったのではなく、自然に歌えていることが感じられなくてはなりません。
バーバーショップの演奏は、聴衆にとって楽しく聴けて、音楽性も豊かなものでなくてはなりません。心から歌い、本気であることが感じられ、作詞作曲と編曲の意図を正しく解釈したものでなければなりません。
理想的な演奏とは、曲の持ち味が遺憾なく発揮され、聴き手が本当に楽しく音楽を聴けることであります。
コンテストの結果を示す動画ですね。滑稽な仕草が多いですが、楽しみながら行うコンテストであることとダイジェストであることとを考えたら自然にそうなるもんです(←滑稽さだけに目を取られたら別の見どころを逃しますよという老婆心)。
先ほどの引用のページにもありましたが、自然7度のドミナント7thコードがことさら重要で、むろん平均律であっても正確な音程をきちんと歌うことは難しいわけですが、純正調でこの和音がきっちり響いたときをgoose fleshあるいはgoosebump(いわゆる鳥肌)、expanded sound(音が鳴り響く様子;spreadと言わない辺り、歌い手に対する評価を包含していそう)、the fifth voice(第5声;4人しかいないのにというのがポイント)、the angel’s voice(天使の歌声)、lock(がっちりハマった)、ring a chord(共鳴した)などというふうに至上の響きとして評する文化があるとのこと。
楽器と違って声は倍音に変化が起こりやすく声質や口の開き方の違いも大きく響きに左右します。ビブラートがもしあればタイミングや周期、回数を揃えて響きを保ちます。そうしたことを考えると奇跡的な響きを得るのがいかに高難度であるか察せます。
Play That Barbershop Chordという曲があるようです。純正調で歌われるかどうかはさておき、なかなかエグい(もちろん賛辞)旋律になってて面白かったのでこれも紹介しときます。
まずRagtime調で打ち込まれたもの。和音の動きがニクい。ニクいけど、こういう曲を書いて歌ってもらおうとすると結構嫌がられます。経験者談。
Judy Garland(「オズの魔法使い」…って言うまでもないのですが、あのファンタジーをジュディに対して抱いてる方は彼女のエピソードをあまり調べないほうがいいと思いますw)が歌ってるバージョン。
実戦で使うことは僕もないと思いますが、ハモりに対して安易に評したりレクチャーするのを控えようと自戒する程度には勉強になりました。