Waves “Grand Rhapsody”

自他ともに認めるWavesアンチなのだけど、安かったので手を出してしまった。

Grand Rhapsody Piano – Virtual Instrument | Waves
Grand Rhapsody Piano – Virtual Instrument | Waves

何せピアノの音にしっくりこないことが多くて、

Native Instruments社の歴代製品

  • Acoustic Piano
  • Steinway、Bösendorfer、Bechstein、Steingraber
  • Maverick、Grandeur、The Gentleman
  • the Giant

Spectrasonics社製Keyscape

  • Yamaha Custom C7、Wing Tack Piano、Wing Upright

のほか、あと裏をかいて専用音源でもないLogicやLiveやReason純正、HALionのものも試してきて、今も落ち着いてはいない。
仕事柄ジャンルを跨ぐことが多く、万能な1個のピアノ音源があればいいなあとは思うのだけど、なかなかそうはいかない。
ちなみに試してみようかと一瞬思ったけど手を出さなかったのはPianoteqとEstonia Grand。

Fazioliというピアノ

さてFazioliという聞き慣れないピアノメーカーについても少し触れておく。
10年以上前だったか、EastWestのQuantumLeap Pianoのサウンドチェックを行なったときにその名を知り、ずいぶんジャンルを選びそうな硬い音だと感じた。それが真価かどうかは判断しきれなかったけれども。
天下のWavesがそのFazioliをチョイスしたということは、果たして何を意味するのか。

YoutubeにはHerbie HancockがFazioliを弾く映像が上がっていて(Herbie Hancock – Live at AVO Session 2006 || Full Concert – YouTubeMarcus Miller & Herbie Hancock’s Headhunters’05 – Tokyo Jazz 2005 – YouTube)、硬さは感じないまでも、輪郭のクッキリさは相当しっかり伝わってくる。

ついでに、フランツ・リストの「愛の夢(Liebestraum)」が演奏されている映像もあったので、BechsteinとSteinwayとも聴き比べてみる。

マイクの立て方やホールの残響の違いのせいもありそうだけど、Bechsteinが重くてドッシリした印象なのに対してSteinwayは弱い方向にダイナミクスが深くて優雅さがあり、強く弾いたときには天然のコンプがかかったような特有の音色になる。Fazioliは弱く弾いても強く弾いてもカッチリと響いて、当初の印象通りだった。

なお、Wiwi Kuanさんによる、ハードウェアを含むピアノ音源の聴き比べの映像は、演奏の腕がいいせいもあって非常に聴き応えがあるので一見の価値あり。

Pianoteqをちょっと触ってから…

触らずあんまりグダグダ言うのも申し訳なさすぎるので、この機会にPianoteqのデモ版もダウンロードして使ってみたら、思っていたよりもよかった。
テクニシャン(ドラムテクニシャン等を始めとして、楽器の仕組みを調整する職業のこと)志向の人には刺激的要素が多くてとてもいいと思う。動作も軽い。
お値段高めとはいえ、今はクロマチックパーカッションの追加ライブラリーが増えて活用度も高いのではないか。
しかしながらやはり当初感じていた通り、ピアノの筐体がどこかに置き去りにされている感じに聞こえ、特に和音をスタッカートでパッと弾いたときの余韻はデジピや従来のサンプリング音源と変わらないか、もしくは少し前の時代のPCMの音という印象だ。

音の分離という点でいうと、これは以前も記した気がするが、Nord Electroを新調してバンドのリハで使用したとき、そのヌケの良さに驚愕したものだ。
キラキラしたヌケのよい音を目指して他の楽器群がトレブルをむやみに上げちゃうせいなのか、それらの中域が相対的に引っ込んだぶん、Nord自体は出音の調整なしにクッキリと中域の音程感が聞こえた。
アマチュアバンドレベルで使うのであれば(無調整でもしっかり聞こえるという意味で)充分なパフォーマンスだと感じた。

Grand Rhapsodyのマイク種類
Grand Rhapsodyのマイク種類

話は戻ってGrand Rhapsody

各パラメーター

Pianoteq同様にマイクがいじれそうなのが興味深いのだが、可能なのはMAX3本のマイクを選んでバランスを取ったりディレイ・タイムを設定できるところまでで、マイクの位置を調整したりはできない。
というのは、この8本をそれぞれの位置に設置して収録したサンプリング音が鳴らされる仕組みだからだ。
マイクを切り替えるたびに読み込み直しが発生するので、パフォーマンスの低いMacやPCだとストレスにはなりそうだし、Pianoteq的な動作を期待すると裏切られるだろう。

とはいえ充分なくらいのサウンドクオリティで収録されていて、96kHzまでのサンプリング周波数で再生できるのは有り難い(RealGuitarみたいに、ハイレートだと鳴らなくなるほうが反則だが)。
あ、でもこれ、迷わずHDのライブラリーをダウンロードしたお蔭かもしれんので要確認か。
ちなみにライブラリーのサイズが13GBくらいあって、うちでは何度かDLが中断して、完了するまで1日くらい費やした。

Formantというパラメーターはフォルマントというよりは音の柔らかさ、暗さと考えたほうがよさそう。また、その名前からするとどうも経験則から、値を変えるとジャギジャギした音になってしまいそうな気がするけれども、しっかりとピュアな音で鳴ってくれるので心配は無用。
KeyUpPedalSustain Resonanceは少々とってつけたようなノイズ。

なかなかいいのがKontaktのピアノにもあるようなCompの利き具合。
今どきの音楽だと、リアルなピアノ音源であるほど曲中でアタックの音程しか聞こえなくなってしまいがちだけど、Compさえしっかり設定しておけば曲に馴染ませやすいと思う。
もっとも、FazioliのサウンドならCompを利かさなくともヌケは期待できる。

Reverbってところには通常のリバーブ以外に、モジュレーションのかかったアンビエンスも備えられている。

使用感とサウンド

上手い人が弾いてそれをMIDIレコーディングするという場合には凄まじい威力を発揮すると思うのだけれども、打ち込みで使うと、ある程度ヌケのいい音であるぶん「わたし、打ち込みで〜す」ってニュアンスがよけいクッキリ出ちゃうと思う。
Wavesのサイト上の動画でもMIDIキーボードを生で弾いてレコーディングする内容であるのは、そういう思惑かなという気がする。
じゃあ弾けない人の役に立たないのかというと、この安さは圧倒的に魅力なわけで、ほかのWavesのプラグインもついでに安く買えるメリットもあるから、そこ狙いで手を出してもいいと思う。

英語だが、デジピ、MIDIのピアノ音源の選択に際してピアノのメカニズムに関する細かい説明がなされている良記事(メールでコンタクトがあったので紹介しておく)。

How to Choose a Digital Piano - 10 Factors to Consider According to Science 2018 - Beginner Guitar HQ
How to Choose a Digital Piano – 10 Factors to Consider According to Science 2018 – Beginner Guitar HQ