(俺ドリル的)コードいじり

しばらくこの手のテーマを扱ってなかったので備忘録兼ねてコード進行、特に積み方の話でも。
よくある、そして大変いじりやすい、♭VI – V7 – Im の形(♭VI – V – i 、IV-III-vi)のバリエーションをただ羅列してみる。俺ドリル的な。
コードとりあえず割り当てて C – B7 − Em としときますか。

両手パターン

とりあえず左手でもルートノートを鳴らしとこうという考え方でのパターン。
ボーカルに対して鍵盤楽器だけ伴奏するケース、ブラックミュージックなど少し重心の低い音楽でのケース。

1 – 原型

(1)
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これがまず原型。
いや、原型というなら2つ目のコードはBじゃなくBmであるべきか。

3 – 7th系

(2)
(2)

7thなりM7thを加える。
キャッチーさを求める制作案件なら、これ以上のいじりはしない。
ブルース、ジャズ、フュージョンをかじってる人はEmにも7thを乗せてしまうが、泥臭さが乗っかって、終わった感が薄れるのであまりやらないほうがよい。

3 – ほんのりオルタード系

(3)
(3)

B7がB7#5になるパターン(#9thは混ぜない)。ルートは5度を補強。
いわゆるオシャレコード、いわゆるスムースジャズの領域で、スウィートなR&Bならこの辺りまでは使って大丈夫。

4 – ダーティコード系

(4)
(4)

海外で流行ってる、ダーティコード混ぜる系(Quennel Gaskinの解説動画(https://www.youtube.com/playlist?list=PLU4CmAHAMfg2FEFKP7wqvdnKfr7F8ZCml)はいいぞぉ)。
Cに#11thを乗せ、Emに13thを乗せて、積みを増やして、左手でワイドストレッチ。
制作時には、複数の和音楽器で同じ積みの形にすると逆に響かない。つまり各パートで違う積みにしてやらないといけないので、それなりの訓練時間が必要かもしれない。
ゴスペルに寄せる感じだとディミニッシュを絡めつつルートが半音ずつ上がったり下がったりするのを挟むとそれっぽくなる。

5 – ブルージー系

(5)
(5)

いったん立ち戻って、最初のコードをM7thでなく7thにするパターン。
この響きが「黒っぽい」と言われたのは印象としては2000年前後までで、今はトライアド(三和音;3コードではない)だけにして徹底的に音色を凝ったほうがむしろ「黒っぽい」。

6 – ラウンジ系

(6)
(6)

全てm7add9にするクラブミュージック系。
ネオ・ソウル以降はアングラの方々がよくやるようになった印象だけど、それでも2014年くらい以降はほとんど聞かなくなった気がする。
ルートを5度に移して(onコード)演奏する手法もあるけど、最近はアレンジ上それをさらっとでなく必要以上に強調するかもしれない。

7 – ドビュッシー系

(7)
(7)

M7thを7thにするならと、ついでに13thを乗せることも多い。
で、ここまでの大体がそうだが、生音じゃない限り積む音の数(ポリ数)が増えるほど単純に音がでかくなってしまうので、音量のばらつきがなるべく出ないようにコードごとのポリ数をなるべく一定に保つことを考慮したほうがよい(素晴らしい音量操作技術があれば別)。

8 – リディアンドミナント系

(8)
(8)

これも海外でよく見かけるようになった、7,13の和音になったら9,13#11に置き換えるパターン(あ、7と8の間にアッパー・ストラクチャーやっとけばよかった)。
メロディに4度の音をなぞるラインのときコードとぶつかりやすくなるのだけど(お蔭でブルー・ノート・スケール一辺倒のフレーズに依存している人とは相性が悪い)、状況次第ではあまり気にせずやり過ごす。
とはいえ、これはインタープレイの一つであって、演奏者同士は「あ、アイツ、ここで何かやりそうだな」と感じたらすぐさまその人のために演奏のスペースを空けたりレスポンスの準備をして、お蔭で事故にならないってだけ(ちなみに日野さんの件でジャズは逸脱命と記された記事があったので勝手ながらフォローさせていただくが、逸脱は必ずしも自分勝手を意味しない)。
空気読む、って別に日本だけではないんだろうね。

9 – 裏コード系

(9)
(9)

B7を裏コードF7にして#9と7,13を同居させるパターン。
オープンボイシングになりがちなのを左手でサポートしようとすると、音域によっては左手がローインターバルリミットに引っ掛かってしまうので、やっぱり左手もワイドストレッチになってしまう。
で広がり過ぎてしまったものを最後の和音でクローズドで閉じたのは、この2小節をループするときにだらしなく聞こえるのを防ぐため。ここもオープンで押さえると各音に広がるベクトルが生まれてしまい、しまいに両手でも弾けないオープンな和音になるおそれがある(意図的にそれを行なった実験作のピアノアンビエントをリリース済み;興味あれば探してみてください)。
あと、書き忘れたけど左手でわざわざルートを鳴らさないってパターンもある。

10 – セカンダリードミナント系

(10)
(10)

ありふれた循環コードで、最後にセカンダリーな II – V にあたる Dm – G7 をつけて戻りやすくしたもの。
G7の部分を裏コードにしてルートが半音ずつ下がる形のものもよくある。

右手主導ケース

ここからは、左手でルートノートを弾くことに固執せず、右手で押さえきれないノートを左手で補うみたいなパターンで、ジャズ、フュージョンなどのケース。もちろん一概には言えない。

11 – オープン系

(11)
(11)

それはそれとして、この例はジャズギターっぽい積み方で、ついでに動きをなるべく小さくしたもの。
外声で都合のいい9度を作っちゃえば内声を動かすだけである程度どうにかなっちゃうってメリットがある。
今さらだけどクラシックやジャズ和声の勉強が必要ならうちじゃなく、ちゃんとしたサイト見たほうがいいです。

12 – 4th インターバルビルド系

(12)
(12)

いわゆる4thインターバルビルド、つまり4度積みを使いつつ、トップノートがD, C, Bと順に降りてくる形。
ワイドストレッチなので届かない場合は左手で補うとして。
4度積み可能な音程を探すにはメジャーならルートから6度、マイナーなら4度の音程のことだけ考えとけば、ひとまず何とかなる。

で、この例に関してはトニックをサブドミナントにすげ替えて、ついでにそれをリディアンドミナントにしてある。
ジャズのエンディングでいっちばん最後のトニックをサブドミナントのリディアンドミナントに変えるケースがたまにあるアレ。

13 – 4度ルートを挟む系

(13)
(13)

最後をトニックでなくサブドミナントにしていいなら、小節数を倍にして1度目をサブドミナント、2度目をトニックにすると4小節分稼げるね、ってパターン。
ついでなので、右手がほぼ同じ積み方で移動して、トップノートをG, A, B, B, C, Dと上がる形にしてみたもの。

結果的にA6/BやEm7/A、F7/B、G∆7/A(Em7/Aと書くほうが多いか)となった分数コードが多めで、AORや洋物フュージョンにありがちな、和音楽器が3rdを基本的に鳴らさなくなるせいで調がはっきりしない形(ボサノバも11thの支配力が強いな)。
前記事でも触れたが、和音楽器が複数あった場合、ノールールだとテンション同士でぶつかりやすいので、ジャムの場合は片方がチャレンジしてる間もう一方はおとなしくするとか、いつまでも片方が場を支配し続けないなどの配慮をする必要が出てくる。
さもなくばAORのように使うテンションノートをFIXしてスコアミュージック化してしまうか、打ち込み音楽など唯我独尊でもOKな状況下で行なうのが賢明。

14 – 並行系

(14)
(14)

いっそ、IV/V の分数コードを最初の2つのコードに使って、その右手の形のままトニックに戻ってくるパターン。
かなり最初の2つのコードが不安定になるが、これもまたAOR等でよくある形。
この不安定さに我慢しきれない(というわけではないのだろうけど)場合、Bの箇所が1拍ずつA/B、B7#5となって最後にEm7add9で終わったりする、これも非常によく見かける。

15 – ペダル系

(15)
(15)

ベースをEのペダルにしたパターン。
「元がC-B-Em」であることを匂わせないと曖昧な響きになってしまうので、ルート抜きだと違う和音に聞こえてしまうCの部分ではルートを補って弾いている。ここでは右手で。

ちなみに、こういう「ベース以外がコードルートを弾いてます」のアレンジはそう聞こえないと意味ないので、その音程をかき消してしまうようなやかましい楽器構成にはなるべくしない。やっても面白いのだけど。
作り手はアレンジ前の和音を覚えているのでいいが、初めて聞く人にとってはゴチャッとした音の塊に聞こえるだけなので、理解されなくてもいいやって覚悟でもない限り冷静に考えたほうがいい。

また、こうしたケースでベース以外のルート音をどの楽器がどの音域で弾くかによるが、低い音程で弾いている場合には、ミックス上、一つ覚えのようにローカットしてしまうと(たとえ倍音の響きでどの音程が削られてしまったかを聞き手が無意識にでも類推できるとはいえ)「ベース以外がルートを担う」効果を損なってしまう。
それが偶然に功を奏する場合もあるにはあるけど、近年納期が極端に短くなる傾向のあるお仕事でやるにはリスクが大きそう。

16 – アッパーストラクチャー系

(16)
(16)

最近個人的にもよくやるようになった、ルートとアッパーストラクチャがぶつかるように組んだ一例。
ここでは最初の2つのコードを7#9いわゆるジミヘンコードのM3thをルートに回してアッパーストラクチャを#9thに、で最後はトニックのルートすら鳴らないEのリディアンドミナントにした(ルートはD)。
コード譜としては、僕の場合はC7#9/E – B7#5#9/D# – F#(9)/D (それかElyd7)と書いておく。


以上、ぱっと思いつくものはこんな感じで、制作時には想定される聞き手を目安にどの程度「濃く」するか考えてます。
ここにリズム的な要素をからめたり、それぞれの合間に経過音もしくは変則的な和音を差し込んだりでバリエーション作る感じ。だけど、コードいじりをしたところでそうドラスティックに雰囲気が変わることはないので、アレンジの一つの素材程度、それでも隙を見てアレコレ捏ねておくべきものと考えてます。